706 名前: 白と赤 ◆ANW.KzCbpw 投稿日: 2006/09/16(土) 20:31:15

  Ⅰ 「やめろ! セイバー!!」少年が叫んだ。


「——————————!!」

 少年が何かを叫び、セイバーのサーヴァントが止まったのを赤い狂戦士は見ていた。
 セイバー達と離れること一キロメートル、その場から弓を片手に持って佇む。
 みつめる先の不穏な空気が無くなりつつあるのを見て。
 ■す理由が無くなった、と弓を消した。

「————————」

 いや、そもそも何故■す必要があったのか。
 何故自分はセイバーではなく■■■■を■そうとしたのか。
 考えても答えは出ない。
 それもこれも狂戦士として召喚されたからだろう。
 私にかかる狂化は弱いもので、それほど多くの理性を奪わなかった。
 まぁ、もっとも。比例してパラメーターも殆ど上がらなかったが。
 マスターが自分にしたことも理性を奪うことではなく、狂化を増強させるということだったが、元より低い物を強くしても然程意味は無かった。
 しかし、何かが抜けている。これがわからない限り自分は狂戦士なのだろうと漠然と理解しているが、思い出そうとしてしまう。

 鷹の目で■■■■を見る。
 ——キリキリ
 じっとみつめていると心の底から何かが沸きあがって来るような感覚がする。
 ——キリキリ、キリキリ
 なんて無防備に笑っているのだろうか。あんなに無防備では今すぐ■せ
 ——眩暈がした。
 はて、自分は何をしていたのだろう。考えるのにこのキリキリという音は五月蝿い。
 視線を音源に向けると。セイバーのマスターに向かって弓を引き絞る自分の腕がみえた。

「———————■」

 慌てて弓を消す。
 安堵の溜息が出た。
 敵マスターを殺すことにではなく。ただ、マスターに厳命されていたことを守ることが出来たことに対する溜息だが。
 改めて向こうを見る。
 狂戦士は敵マスターと楽しそうに笑っている己がマスターを見て顔を顰めたが、その表情に僅かな喜びが混じっているのを知るものはいない。
 そう、狂戦士自身も知らない。




「ふーん、じゃあシロウはお弁当をそのタイガっていう人に届けるのね」

「ああ、そういうことになるな」

「イリヤスフィール、シロウに近づきすぎです」

「別にいいじゃない。それとも、セイバーはサーヴァントの癖に嫉妬でもしてるのかなー」

「な、違います! 撤回を要求します!!」

「なあ、イリヤ。さっきから気になってたんだが、なんでお兄ちゃんなんだ?」

 セイバーを抑えて、誤解をといて、イリヤに名前を教えて、セイバーにも謝って。
 そして一緒に学校まで行こう、と。
 賑やかに楽しくやっていたが、それも終わりみたいだ。
 多分自分は聞いてはいけないことを言ったのだろう。
 イリヤは一瞬悲しそうに顔を歪め。

「シロウが切嗣の息子だから。わたしは切嗣の息子を殺すの」

 そんなことを言った。
 自分を殺すと言われた理由がわからない、意味もわからない。
 いや、そんなことはどうでもよかった。
 自分を殺すと言われたときのショックはあるが。それより、自分を殺すと言ったときのイリヤの顔がショックだった。
 泣いてなんかいない。笑っている。
 でも、その笑顔はさっきまでのそれと違う。
 だから聞いた。自分を殺す理由を知りたいからではなく、そんな顔をさした原因が知りたくて。

「——な、どうして」

「うーん、秘密。シロウが死ぬときに教えてあげる。
 あ、バーサーカーが来たみたい。わたし帰るね」

 赤い外套を羽織った騎士が現れる。
 その異常。紛れも無くセイバー達と同じ存在であることが伺いしれる。
 しかし、今はそんなことはどうでもいい。
 こいつはセイバーに任せればいい、現に、セイバーは武装して構えている。自分はイリヤに何かを言わなくては。

「じゃあね、お兄ちゃん、楽しかったよ。わたしが殺すまで死んじゃダメだよ」

 赤い騎士を従えて去っていく。
 このままじゃ駄目だ。きっとよくない。


 何か言わなくては。


 夢に 「……………………」
 溺れ 「——また、また遊ぼう」
 沈む 「——俺はイリヤと戦わない」

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最終更新:2006年10月16日 23:32