717 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/09/17(日) 03:34:46
靴の爪先が巻き込まれ、体勢が崩れた、その瞬間。
敵が笑ったのが見えた。
ふと、『ああ、敵は勝ち誇っているんだな』と理解した。
『相手が勝ち誇った時、すでにそいつは敗北している』とは、彼の父の言葉だ。
「グレート……ベストポジションだぜ」
体勢が崩れたまま、敵を指さした。
指さした手には崩れた瞬間拾い上げた弾丸。
既に発射され、変形していようと、弾き飛ばすには問題ない。
勝ち誇っている時、その思考は自ずと読める。
そう、こういう性格の男が勝ち誇っている状態になれば、悪足掻きにしか思えぬ反撃は、回避せず、弾き飛ばすことは容易に予想できた。
故に。
「なおす」
敗北する。
悪足掻きにしか思えぬ弾いた弾丸は杖で叩き落とす。
口元には笑み。
「ほぉーら、こいつでトドメだ!」
そんなことを口にした瞬間。
彼の背後に何かが突き立てられた。
「がっ……」
突き立てられたのは剣。
壁に命中し、転がった剣。
それが『元に戻ろうと』内臓に命中していた。
そして、剣はそのまま仗助の手元に戻っていく、体を引き連れたまま。
崩れた体勢は既に立ち直りかけていた。
立ち上がる力、それを過剰に足に与え、コンクリートの大地を蹴り上げ。
「ドラァッ!」
その力を利用したアッパーが顎に炸裂した。
「……グッ……ズッ……ウウウウゥ」
倒れた状態から立ち上がろうとする。
仰向けで倒れたことで剣はより深く突き刺さっているようだった。
恐らく片方は破れたであろう肺に空気を全力で注ぎ込む。
痺れる指先で杖を握り、地面に突き立てる。
「おいおい、無茶しねーで寝ときなよ、この街から立ち去るって言ってくれりゃトドメさしたりはしねーからよ」
「ランサアアアアァァァァ!」
死力を尽くして、叫ぶ。
そして一陣の風が吹き、男がランサーに抱えられていた。
「残念だが、マスターがこの状態では仕方がないよな?」
飄々と、ランサーがそんなことを口にして、再び風となって去っていった。
立ち去ったことを確認し、仗助は全力で息を吐き出す。
「さて、では帰るかね」
「ちっと……休憩させてくれよ」
「おいおい、そう言っててまた誰ぞ来たらどうするね? 残骸の回収は済んだし、休みたいなら家帰って休みたまえ」
「帰ったらベンキョーあるって考えたら帰る気もなー……」
ぐたりと、地面に寝転がった。
「やれやれ、仕方ない」
そういうと、仗助は肩に抱えられていた。
「我が儘は良くないぞ仗助、家まで抱えていくからベンキョーしたまえ」
「ぬあー、分かった、歩く! 歩くからそういうのは止めてくれ!」
数分前まで命懸けの戦いを繰り広げていたとは思えぬ程軽い声と動きで、彼等は戦場を後にした。
最終更新:2006年10月16日 23:48