812 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/09/19(火) 02:29:16

それは春休み直前の事だ。
「あの、葛木先生……」
学園の廊下にて生徒に呼び止められた。
「五十嵐に、三原か」
「はっ……はい!」
「どうした、質問か」
「いえ……今日はお願いがありまして」
お願い、といわれて言葉に詰まる。
確かに彼女達一年生の授業は受け持ってはいるが、個人的に頼まれるようなことは想定していなかった。
「あの、葛木先生は今部活の顧問などはなさっていませんよね?」
「うむ、希望も特にないのでな」
「そ、そこでお願いなのですが」
「来年度から将棋・囲碁部の」
「顧問をお願いできないでしょうか」
二人が譲りながら用件を口にした。
「……今現在そのような部活動はなかったと記憶しているが」
「来年度から活動を開始する予定です」
「今年の穂群原の試験に後輩4人が合格しまして」
「それで、4人とも将棋部や囲碁部の出身なんです」
「実は私達もそうでして、顧問を捜していたのです」
「ふむ、部活動は最低5名からということだったな」
「はっ、はい!」
「手筋指導などはできぬがそれでも良いのだな?」
「はい!」
「わかった、明日の職員会議にて話をしておこう」
「ありがとうございます!」
そんな経緯で、彼は新年度から顧問である。


その葛木宗一郎は、柳洞時の縁側にて月を見ていた。
月の夜は、つい思いを馳せる。

彼は死ぬはずだった。
だが死ねなかった。
彼女の最後の言葉はなんだったのか、思い出せない。
すべての存在はこうやって段々と記憶から消えていくのだろう。

彼の死生観は、寺に世話になっていることもあり、仏教にほぼ等しい。
死とは苦しみからの解放であるという物だ。
だが、それでも、彼女は死後に彼の元に現れ、再び死んだ。
それはどれほどの悪夢なのだろうか。

無言での吐息。
「おや、葛木殿、寝付けませんか?」
「……ええ」
無難に答える。
現れたのは零観だった。
「他の者はよく眠っております故、暇を潰す相手にもお困りでしょう? どうですかな? 一局」
持っていたのは将棋盤だった。
「正直に言えば、強くなる前にこてんぱんにして勝ったままにしておきたいということですがな」
豪快に笑った。

一局を終え、二手差で零観の勝利に終わった。
「ふむ、先程の金取りか」
「そうですな、金取りからの攻めでは四手攻めが遅れますからな」
物音がした。
「む?」
「境内からのようですな」
「行ってみましょう」

「なるほど、実によい霊地だ」
境内には一人の男が座っていた。
「何者かね、冠婚葬祭の類ならば明日にするが宜しいでしょう」
零観の言葉に男が立ち上がる
「ふむ……この誘眠香、完全ではなかったか、まあ良い」
「待ちたまえ、どうもまともな手合いではなさそうだ」
葛木は零観の肩を掴む。
「私はネルソン・イブラヒム、この地の零脈に惹かれここに来た」
男の前面に、背後に、左右に、全面に黒い影が広がっていく。
「私の勝利を盤石にするためにも、例外は排除させていただこう……この地の零脈を得るために」
影から、何かが立ち上がる。
その数は軽く50を超えていた。

「ふむ、ジョージ・A・ロメロのファンが驚喜しそうな光景ですなぁ、かくいう私も学生時代はそうでしたが」
ゾンビの大群を豪快に笑い飛ばしながら、零観が袖を捲る。
「いかにこの寺とて邪教は受け入れがたい、ご退場願おう、葛木殿も手伝っていただけますかな?」
言われるまでもない『殺す』事への躊躇はない。
言われる前に飛び出していた。



ゾンビは——

Night of the Living Dead:不自然な動きをしながら歩いて襲いかかってきた
Day of the Dead:倒しても倒しても影から湧いてきた
Dawn of the Dead:やたら素早く襲いかかってきた

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最終更新:2006年10月16日 23:50