760 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/10/10(火) 02:30:53
「……よし」
時刻を確認する。
邸内の地下で精神を集中させて既に3時間、気力は十分。
召還の予定時刻まであと数分に迫っていた。
衛宮邸にて、宴会になり始めた夕食をそこそこに切り上げ、彼女、遠坂凛は自宅に戻っていた。
召還のためだ。
この戦いは彼女が彼等を巻き込んだと言っても過言ではない。
それを彼女が、彼女と彼女のサーヴァントが最前線に立たねば嘘だ。
そう、あのライダーとジェネラルの戦い、彼女に出来たのはただの援護だけ、それも焼け石に水どころではなかった。
例えるならば砂漠に水を垂らすのと大差はない。
彼女の力だけで勝てるとは彼女も考えては居ない。
勝つためには、その為には召還が、サーヴァントの力が必要だ。
そのために持ちうる最大の力を使う事に決めた。
召還陣は『存在し得ぬ』宝石をもって描いた。
そして触媒には『存在し得ぬ』刃をもって召還を行う。
歴史上闇に消えたピゴット・ダイヤモンドを無断で使用した。
触媒には戦闘で回収した、あの赤い男の刃を——アーチャーの刃を使う。
それは心の贅肉なのかもしれない。
剣を使い召還すれば、最優のセイバーが召還できるかもしれないという、その名目。
だが彼女は知っている。
ただもう一度会いたいと考えてしまっていることを。
目を閉じる。
一度大きく息を吸う。
「——告げる」
全ての思考を断ち切り、召還の儀式が始まる。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」
どこまでも力強く。
「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
途方もない、かつての彼女の召還が児戯に思えるほどの確かな違和感<<感触>>。
「誓いを此処に」
切り離したはずの思考が、彼女の思考が逸る。
「我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
だが、それでも言上を述べ上げ、力を解放する。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ———!」
室内に光が満ちる。
途方もない実感。
この感情を述べる術が彼女の中には、否、全ての平行世界の全ての人類の中には存在しない。
『途方もない実感』などという言葉ではこの『実感』を述べるには全く足りない。
——その感触を味わう暇もなく
最終更新:2007年05月21日 00:48