823 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/10/12(木) 03:57:15
彼女達の目的な潜入だった。
召還される予定の座内部の座標。
そこに突如現れる。
「しまった……予定時刻から遅れてる、急がないとここに取り残される」
「うん……見えた!」
召還が始まる。
「あそこ、召還されようとしている人がいる!」
「間に合わない!?」
全力で跳び、二人で袖を掴む。
そのまま、世界に引きずり込まれた。
「それで、三人は何者なの?」
遠坂凛は、紅茶を飲み干してから聞いた。
なんだかもの凄くやさぐれている。
「そ、それじゃあ私から」
少女キャスターの一人が手を挙げる。
「待って、私から話した方が話が早い」
その仕草もやはり少女らしい。
「私はフェイト・テスタロッサ……この世界にとって異世界の……とある管理局の局員で、現在聖杯の入手を目的としています」
真名と目的をあっさりと名乗る。
「管理局……」
凛の表情が変わる。
ロンドンの時計塔の類のようなものだろうか。
「私は高町なのは、管理局の、民間協力者です」
なるほど、内容はどうあれその管理局の話があれば理解できれば分かりそうだ。
「異世界というのは平行世界という事でいいのね?」
「ええっと、そうだと思います」
困ったように笑う。
「そしてその管理局は聖杯を手に入れることを目的にしている」
「そうです、その力は世界に害を為す可能性があり、入手し、然るべき手段で保管されるべき、というのが理由だそうですが」
「ふむ……」
確かにそう言われれば理由も分かる。
かつて彼女が関わった際も、聖杯は彼女の妹やその恋人の命を奪いかけた。
実際、二人が助かったのは奇跡と言う他ない。
まして今回の代物は紛い物で、どれほどの事が起こるのかは誰にも分からない。
「その為に座を通してこの世界に来ました、無理な奪取は『 』や英霊を敵に回す可能性があると言うことです」
「なるほどね……」
納得のいかないこともある、というか、言いたいことは山とあった。
だがここで彼女の家系が望む第二魔法について語り出せば止まるまい。
それが分かっているだけに彼女は自制した。
「それじゃセイバー、貴方もその管理局の人間と言うことでいいの? 医者だって言ってたけど、医局とかそういう?」
「いえ? 私はそう言った物とは全然……うん、実に良い味だ」
目をつぶり紅茶を堪能したまま応える。
「それじゃなんでまとめて召還されるのよ」
異世界というのならば『 』に選ばれる座の基準なども違うのかもしれない、という考えを否定する。
「ああ、そうですね、座について説明した方が良いのかもしれません」
824 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/10/12(木) 03:58:18
座の英霊は座の中に存在している。
当然のことである。
存在している英霊は、座の中での移動は自由だ。
とはいえ、同じ風景ばかり、地面も存在していないような者ばかり見せられては良い季候とはいえすぐに飽きる。
食事も睡眠も必要のない、肉の失せた精神体である英霊。
その段階になって、己のそばに眠る己の情報という存在に気付くだろう。
それを飽きるまで読む事もあるだろう。
それを無視し、好奇心のままに座の中を探検してまわるのも良いだろう。
その頃には時間の感覚はなくなっている。
不規則に自分が流されていると言うこともどうでも良くなっている。
座の中で他の英霊と会うこともある。
極小の中の可能性とはいえ時間は事実上無限、ならば確率の上では英霊は全ての英霊に会うことが出来る。
だがそれはやはり極小の確率であり、大概はその前に飽きてしまうものだ。
守護者として呼ばれるのであろうと、聖杯戦争にて戦う存在として呼ばれるのであろうと召還の際は同じプロセスである。
基本は突然。
浮遊感の喪失と、必要な情報、倒すべき敵やその時代の常識等の刷り込み。
そして実際の召還に至る。
召還は、座内部の適当な空間に存在する英霊を空間ごと世界に引きずり出す事で始まる。
英霊の数はそれこそ無数に存在する故に召還される可能性は極小。
だが召還される事例は平行世界ごとに無限。
故に、英霊が出会い、その瞬間に召還される例も無限に存在するのだ。
「まあ、召還の際に袖を引っ張られたのは初めてですが」
飲み終わったのか、笑顔のままカップをテーブルに戻す。
「おかわり、頂けます?」
「その前に答えて、貴方は何者なの?」
極小の中の極小という事例に出会ったことが幸運なのか不運なのか判断が付かぬまま応える。
「さて……召還されたことが何回かある、という程度のことだけで、あとは先程応えたのが今言える私の全てですが」
「はい?」
つまり医者で、セイバーだと言うことだけですか?
「あと妻と娘が居ります、かわいい子ですよ……そうですね、なのはさんに、フェイトさん、ですか、娘の良い友達になれそうだ」
二人の頭を撫でる。
その手は二人を妙に安心させ、場を和ませる、天然の父性であろう。
そして凛は頭を抱えた。
「また記憶喪失……うっかり屋を召還してしまうのかしら……」
うっかり屋の筆頭がついつい呟く。
だがすぐに気を取り直して。
「それじゃあ——」
最終更新:2007年05月21日 00:50