876 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/10/14(土) 04:54:06

タイタニア・ヴィルベルトは夜闇の中冬木市を歩いていた。
本来この聖杯戦争の舞台はS市である。
だが彼は『パートナー召還』から今日まで一度もS市に赴いては居ない。
昼の間はある場所に隠れ、夜になればこうして冬木を徘徊する。

「……ここか?」
「さあ? アンタが収集した情報が正しければ此処は紛れもなく『候補の一』だ」
立ち止まったのは洋館の林立する区画の一角だ。
タイタニアは歯噛みする。
「落ち着けよ、マスター、まだ確証はない、正しいとしてもあくまで『候補の一』に過ぎないんだぜ?」
パートナーは現界したまま、子供っぽく親指を舐める。
日によっては親指を噛む事もあるが、今日は『舐める』ばかりだ。
「ああ、分かっている、確証を得るまでは手出しをしない……魔術師の工房に踏み込むのは一度が限界だろうからな」
「その冷静さを失わないことだよ、マスター、それが肝心なんだ」
「あのな『ランサー』、その話は聞き飽きるほど何度も聞いた、もう良いだろう?」
「そうは言うがな、アンタ才能はあるがまだ子供だろう?」
「俺は子供じゃない!」
「そうやってムキになるところが子供だと言うことだよ……」
そう言われてタイタニアは不機嫌な顔をする。
ランサーは優しく頭を撫でる。
「ま、もう良いだろう? 情報は集めた、また明日……」
言うと同時にタイタニアを突き飛ばす。
彼等の言う『候補の一』、遠坂邸からセイバーが飛び出して来たのが見えたからだ。

ランサーが瞬時に槍を出現させ、『遠坂のサーヴァント』と正対する。
ランサーは槍を出現させる瞬時、それだけで間合いが詰まるのを確信していた。
詰まると同時、眉間、牙顎、米神の三カ所への突きが放たれる。
腕を二つしか持たぬ人間には不可能とも思える三段突きを正面の男はやってのけた。
そのうちのどの一撃を受けても、衝撃で無力化することは避けられない。
「下がれ、マスター!」
二つを槍で、米神への一撃を拳で受け止めるとランサーも間合いを開けるべく後ろに下がる。
下がるために跳んだ瞬間、それだけの間合いが開くと同時に蹴りによる突きがランサーを襲う。
正中線、丹田への蹴りは、やはり槍で受け止められた。
「やりやがる! 何者だ!」

877 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/10/14(土) 04:54:51

「やりやがる! 何者だ!」
凛達三人も飛び出すとそんな声が聞こえた。
「はい、私はセイバーです」
あくまで悠然とセイバーは答える。
「剣ではなく素手か? 手を抜かれるとは心外だぞ! 剣を出せ、セイバー!」
そんな言葉と同時、凛のガント、そして少女二人の光弾がランサーを狙う。
だがその一撃は、ランサーの槍の一振りでかき消される。
「なっ……」
「無駄だぜ、中々の代物だが、俺に半可な魔術は通用しねえ」
ランサーが親指を舐める。
「あの槍……対魔術の儀式でも施してあるの?」
ガントはともかく、後ろの二人の放った魔術は殆どAランクの攻撃だった。
それをただの一振りで掻き消すような代物は通常存在しない。

「さあ、援護のあるなしでこっちが有利になるんだぜ? セイバーよぉ!」
ランサーが突撃する。
その後方ではマスターらしき少年が地面にルーンを描くのが見える。
遮断のルーン、一瞬だけであれセイバーと凛達が分断された。
「さてね……そんな有利不利は関係ないんじゃないですか?」
槍の連撃を、無駄のない足運びと牽制攻撃で回避する。
その足運びは、マスターとセイバーの間にランサーを挟むような動きであった。
「大した自信だな、セイバー!」
「それは君の方ではないかね? 『フィアナ騎士団長』」
ランサーの表情が変わる。
連撃の速度がさらに上がる。
「その身のこなし、槍の技量、足運びに癖……マックアート王の時分、アイルランドの騎士団長とお見受けするが?」
連撃が止まり、ランサーが後ろに下がる。
気付けば遮断のルーンの効果は彼女たちに掻き消されていた。
「……そこまで分かるかよ……まいったね」
ランサーの顔が笑顔に変わる。
再び親指を舐め、笑う。
「よく分かったな、こんな短時間で……お前どこの英雄だ? 生前に会ったことはないはずだぜ?」
「さて、どこでしょうか? 多分アイルランドだと思いますよ?」
ランサーが爆笑し、中指を立てる。
「気に入ったぜセイバー、出来ればもう少し戦いたいところだが……双方のマスターがそうそう許してくれるわけではなさそうだ」
「そうですか、私としても無益な争いは好みではありません」
ランサーがマスターの所に下がる。
「遠坂凛、お前は敵だ! いつか絶対、後悔するまでぶん殴ってやる!」
「やれやれ、そんなこと言って『誤解だったら』敵を作っただけだぞ、マスター」
皮肉っぽくランサーが呟く。
「うるさい!」
「まあいいさ、『本当の敵』じゃないのなら、後で酒でも酌んで楽しもう……こいつも悪い奴じゃないんでこいつも一緒にな」
「ええ、それは楽しみにしておきますよ」
ランサーはゆっくりと立ち去る。

「ランサー、お前敵に馴れ馴れしいぞ! 後でいつか戦うんだぞ!」
「まー、良いでしょうに、男でも女でも一緒に酒を飲んだ方が楽しいぞ?」
そんな声が微かに遠坂邸の住人達の耳に響いた。


蚊帳の外の士郎:「遠坂、今のはなんだ?」蚊帳の外だった士郎が呆然と声を発した
命を狙われた遠坂:「凛さん、命を狙われることについて心当たりは?」セイバーが聞いた
休息する面々:「ま、いいわ、戻りましょう」遠坂が両手を叩いて三人に言った

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最終更新:2007年05月21日 00:54