122 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/10/22(日) 04:44:02
「あー!」
野獣の絶叫のような大声が公園の入り口から聞こえた。
イリヤを胸の中においたまま入り口の方を見てみれば、冬木の黒豹こと蒔寺の姿が。
「おーい、由紀っち! 鐘っち、こっち! 大変な事態だー!」
ぬ、まさかまた何か事件が発生か?
「どうした? 網走帰りで何か懐かしい物でも……む」
「どうしたの? 蒔ちゃん? ……あれ?」
うわあ、あの二人までやってきた。
「まさか遠坂だけでなく幼女にまで手を出すとはー!」
ちょっと待てそこな黒豹。
「ふむ、予想外と言えば予想外だ」
「え、えーっと」
二人はなんと言って良い物やら悩んでいるらしい。
だがなんだろうか、もの凄く誤解されているような気がするんだが。
「えーっと、イリヤ、悪いんだけど、ちょっと離れてくれるかな?」
事情を説明というか、話をするにしてもこの密着した体勢というのはどうかな、と思う。
「んー? いいじゃない『お兄ちゃん』、少しくらいー」
ぺたぺたと体を触ってくる。
うう、見られていると意識するとなんだか非常に恥ずかしい。
衛宮君、妹さんがいたの? という視線を送る三枝さん。
まさかそう言う趣味だったとはと呟く蒔寺。
少なくとも黒豹さんは誤解しております。
「あー、三人とも、話せば長いんだが」
「お兄ちゃんか、衛宮」
なんだか声と視線が凍っておりませんか氷室嬢。
「……うむ、そうなんだ」
そうとしか答えられない。
「そういえば寺の子から衛宮は養子だと聞いたことがあるが、その子が実子か?」
寺の子って一成の事か。
「まあ、そう言うことになる」
これは嘘ではない事であるし。
今現在家にはあと三人程血の繋がってない妹がおりますとか言えませんが。
「……ふむ、私は氷室鐘、妹さん、お名前は?」
目線をイリヤと同じ高さまで下げて氷室が尋ねた。
その事に感銘を受けたのか、イリヤが離れて、優美に一礼する。
「私は兄様の妹、イリヤスフィールと申します、以後お見知りおきを」
うーむ、こういうのもなんだが高貴なオーラが漂っている。
「ね、お兄ちゃん」
いや、突如戻られても反応に困ります。
「良かったぁ……」
三枝さんが胸をなで下ろしている。
どうやら彼女も微妙に誤解していたようだ。
なんというか最近ロリコン疑惑を掛けられる事が増えているような気がするんだ。
123 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/10/22(日) 04:46:17
「納得いかねー!」
だがそれでも黒豹は爆発した。
「なんでこんな美人で将来楽しみな妹が衛宮の家に住んでるんだぁー!」
ん? そういえば、家には住んでないってことを言ってなかったな。
というか当然のように城に住んでいると思っていたがそれで正しいのだろうか。
「弓道部長とか遠坂にまで手を出しておいてこんな妹までいやがるたーどんな家系と血統なんだこんにゃろー!」
「蒔、それでは何を言いたいか衛宮に伝わりはせんだろう」
愚痴とかじゃなくて何か伝えたいメッセージがあったのか?
つきあいの長さから分かる何かがあったのだろうか。
「つまりだ、蒔の字は『納得いかねぇ、家に行かせろ』と言いたいようだ……ついでに言えば私も君の家には少し興味はある」
「私も、ちょっと行ってみたいな」
後ろで三枝さんが頷いている。
「……なるほど」
ある意味で好機かもしれない。
イリヤをただ家に誘っただけでは断られるかもしれない。
だが妹と名乗ったからには一緒に暮らしていると考えるのは道理だろう。
彼女たちにアインツベルンや聖杯戦争についての話をするわけにもいかない以上話を合わせるのが最良の手段であると思う。
うん、極自然にイリヤを家に連れて行くことが出来るかもしれない、ある意味で感謝だ! 三人とも。
「ああ、うん、構わないよ、良いよな? イリヤも」
きょとん、とイリヤが惚けていたが、言葉の意味にはすぐに気付いたらしい。
「あ、うん、いいよ、それじゃあ、帰ろうか?」
心の中でガッツポーズをする。
良かった、丁度連れて行く口実が出来た。
「ああ、そうだ、衛宮、家まではどの程度かかる?」
家の前までは行ったことはあったはずだが、どうにも位置までは曖昧だ。
「ん? 一時間もかからないぞ?」
言われて手首の時計に目をやる。
「ふむ……少々早いが昼時だな、それにお邪魔するというのに手ぶらというのは問題がある」
「んー? いいじゃんいいじゃん、どーせ衛宮の家だぞー?」
「で、でもお野菜とかお総菜とか位は買っていっても良い、と思う」
「ふむ、決まりだな、商店街に寄っていこう、なに、そう時間と手間はとらせん、買った物も当然私達が持とう」
そう言って歩き出す。
「いや、それはさすがに気が引ける、重い物は持つぞ」
ついでに言えば色々と買い置きしておこうとも思っていたしと付け加える。
「ふむ、そう言えば大家族というか、駆け込み寺のような状態だと言っていたな、何人ほどいるのだ?」
簡単に数えてみる。
藤ねえと桜、遠坂は家に居るだろう。
バゼットさんは居るか不明だが、ルヴィアは見知らぬ街を観光で歩きまわるということはあまりなさそうだ。
それにライダー、キャスター、ジェネラル、先生、なのはにフェイト。
……美綴は家に帰ったはずだからこれで全員、かな?
「……俺を含めて12、いや13人、かな? ああ、それから今大動物が二匹いる」
バゼットさんが密輸したシベリアトラの雄雌と、そしてイリヤのカウントを忘れていた。
四人とも目を見張る。
「君の家は社員寮か何かかね?」
「いや、そう言う訳じゃないんだけど、成り行きでな」
イリヤは驚きをどうにか隠せているがいつ決壊してもおかしくない状況になっている。
「ますます興味が湧いてきたな、急いで買い物を済ませてしまおう」
最終更新:2007年05月21日 01:05