174 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/10/23(月) 04:36:25
拳の激突。
大振りの右など当たる相手ではないが、その一撃で相手の動きを牽制、誘導する。
無論その一撃とて当たれば脳震盪は免れぬであろう剛の一撃だ。
二手先の右こそ本命、その為の次の左拳で後方の壁、更には木が立ち回避不能な位置へと追い込む。
だがその目論見は最初の大振りの段階で防がれる。
敢えて大振りの一撃に合わせて後方へ跳ぶ。
ならばそのまま続く連撃で詰めを掛けると追撃する。
だが、追撃の左拳は壁にめり込むに止まり、追撃対象は壁を蹴って庭の中程に退避した。
これで八度目。
既にバゼットの追撃は八度失敗している。
幾度となく追い詰めてはいるが未だ決定打を放つことは出来ていない。
彼の拳はボックスを作るでもなく、それどころかまともに構えることもなくゆるゆると流れるように動いている。
――なるほど、これが東洋系武術
バゼットは思考する。
これまで見せられた動きは彼女の常識の外であった。
正面に立つ彼に『型』と言うような代物は存在しないように見える。
だがそれで居て鋭い。
彼女の拳は鈍器だが、彼の拳は刃物のようであった。
――型を為す事を功と思っていたが……なるほど、これならば型は不要、いえ、むしろ足手まといなのかもしれない
そう理解すると一定の距離を保ちゆっくりと歩き出す。
――だがそれは言ってみれば無手勝流、防御に於いては脆いと判断できる
脚に予め刻んでおいた強化のルーンを発動させる。
最初の一歩で距離をゼロに持ち込む最速の踏み込み。
地面がめり込むほどの初速は対戦車兵器にも匹敵する威力を生み出す事を確信させる。
そのまま速度と体重を乗せた最速のストレートを放つ。
――とった!
彼女が確信する最速の一撃。
「え?」
だが次の瞬間、彼女が宙を舞っていた。
拳を受け流して、その力を利用して投げ飛ばしたのだと気付いた瞬間に両手足を用いて着地する。
殆ど庭の端から端まで投げられたのだと理解できた。
「今のは危なかったですね」
笑顔を崩さぬまま距離を詰め、止まる。
その距離は先程よりも二歩遠い距離であった。
――なるほど、これが剣無きセイバー……遠坂六道か
気付けば、バゼットの手の甲が浅くではあるが切れていた。
浅く流れた血を舐め取り、正体不明のサーヴァントを見る。
――遠坂というのがあの遠坂凛に合わせた物だとしても、六道……りくどう……仏教徒<<ブディスト>>か?
じりじりと間合いを詰める。
いずれにせよ、彼女自身東洋の知識に詳しいわけではない以上、考えることを無駄だと悟る。
攻撃のタイミングを計る。
それを悟ったのか、セイバーも腰を落とす。
175 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/10/23(月) 04:39:38
「うわ……スゲ」
「うわあ」
蒔寺と三枝さんの二人は目を丸くしている。
そりゃそうだろう。
模擬とはいえサーヴァントと武闘派魔術師の勝負である。
並の喧嘩士ならば裸足で逃げ出すよこれは。
「――質問があるのだが良いだろうか?」
「なんだろう?」
大体想像はつくが。
「あの二人は武道の師範か何かか?」
「いや、そういうのじゃないと思う」
敢えて言うと……フリーターと医者?
うわ、似合わねえ。
ふと縁側を見れば、先生とバゼットの模擬戦を見守っている面々が居た。
全員が二人の動向に目を見張っているのか誰も玄関の面々に気付かない。
「とりあえず荷物もあるし、玄関から上がろう……みんな縁側にいるようだからまとめて紹介するよ」
「そ、そうだね、お邪魔します……」
三枝さんがおそるおそる、しかし家主に続いて玄関へ向かう。
「桜、ただいま」
「あ、お帰りなさい、そろそろ昼食の時間ですけど……あ、こんにちは三枝先輩」
「こんにちは、間桐さん、お邪魔します」
「……色々あって昼食は四人分ほど追加、頼めるかな? 出来れば三人追加したと見せかけるような感じで」
こそこそと桜に耳打ちする。
足下にはイリヤがにへーと笑っていた。
桜の顔が驚きに彩られる。
「桜、出来るだけ自然にな」
「は、はい」
その驚きをどうにか打ち消す。
自分自身驚いているがどうして良いのか全く分からないので逆に自然体になっているようだった。
蒔寺は庭の様子が気になるのか買ってきた荷物を置いてすぐに縁側へ行ってしまったようだ。
「すまないな間桐さん、突然のことだがお邪魔する……少々衛宮の妹君のことが気になってな、待っているのも悪い、少し手伝おう」
「は、はい、ありがとうございます、そうですね、なにしろ大家族ですから……」
「大家族? イリヤスフィール嬢の他にも居るのかね?」
藤村教諭から衛宮士郎の事は幾度か聞いたことがあるが他の妹や弟の事は聞いたことがない、
学年や年齢が違えばそう言った事もあるのだろうかとも思ったが、複数人いるならば一度くらい聞いたことがあっても良さそうな物だ。
「そうですね、最近になった分かったことですし……それぞれ生活もありますから」
ふむ、腹違いの兄弟姉妹という奴だろうか。
最近になって分かったのならば無理もない。
事情を聞くほど野暮でもないし、その事実を受け入れるしか出来まい。
昼食の時間、各人の自己紹介を終え、私こと氷室鐘が最も興味を持ったのは
最終更新:2007年05月21日 01:06