315 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/10/26(木) 04:49:57
「む?」
邸内に聞き慣れぬ異音が鳴り響く。
その瞬間に邸内の空気が変わる。
表面上の変化はない。
だが間違いなく温度が数度下がり、空気が張り詰めた。
……来客のベルだとすれば随分と剣呑な音を出す物だ。
まず動いたのは家主の衛宮氏、何人かに目配せをしている。
そして続いて遠坂嬢がサンダルを履いて庭に出る。
夜逃げのように設置されたままの脚立から屋根に上る……何か途方もない借金でもしたのだろうか、彼女は。
ふと目を邸内に向ければ六道氏とカール氏が衛宮氏の後ろに立ち、廊下に出る。
……まるで状況が理解できない。
とはいえ、一応は部外者である以上、ここは黙って状況に流されるしかなかろう。
――まさか真っ昼間から敵の反応とはね
士郎からの目配せに頷く。
庭から屋根へ上り、玄関に入ったところを背後からマスターを叩く。
前衛がサーヴァントである可能性が高い以上有効な攻撃だ。
サンダル姿ではどうにも格好がつかないが仕方がない。
「……どうぞ」
身構え、玄関に声を掛ける。
「お邪魔する」
音もなく玄関が開き、現れたのは一人、老人である。
眼光は鋭く、身なりもしっかりとした人物だった。
「……何か?」
警戒はまるで解けない、目の前の老人は怒気の類を隠しもしない。
「イリヤスフィール嬢を返還いただこう」
「……イリヤを?」
「さよう」
これ以上は言うことはないとばかりに気を増す。
一触即発。
そんな言葉がぴたりと当てはまる状況で。
「ヴェルナー!」
声が響く。
イリヤの声だ。
「おお、イリヤスフィール嬢、ご無事でしたか、心配しましたぞ、さ、帰りましょうぞ」
「いやよ、私はここに泊まるの」
「何を言うかと思えば……昼食までに帰ると仰っていたにも関わらず……」
「いいの! 私は……」
老人の眼光がイリヤを貫く。
それでも怯まず、見据える。
数秒の後、折れたのは老人の方であった。
「……良いでしょう、今日のことは私が誤魔化しておきましょう……ただし、今日一晩のみですよ」
「……わかったわ」
そして衛宮士郎を見据える。
「もし嬢に何かあれば、私と我々は何があろうと必ず貴方を殺す、宜しいか?」
無言で頷く。
それを見届け、玄関を出る。
その背中越しに。
「……少なくとも二組、この家を見張っている者が居ります、努々油断なされるな」
そんな言葉を投げかけた。
出て行ったこと、そして壁の向こうに消えたことを視認して。
思い切り息を吐いた。
これほど人間的な気迫というものに気圧されたことは衛宮士郎の経験の中では初めてのことだ。
かつての聖杯戦争での人外の強さと共に迫る気迫とはまた違う感覚であった。
「生粋の軍人だな、あの気迫は中々の物だ」
カールが呟いた。
そして、
最終更新:2007年05月21日 01:10