338 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/10/27(金) 05:11:29
「私は、此処に居てもいいんだよね?」
イリヤが不安げに言った。
「当たり前だろ、イリヤは家族なんだから、そんなことを気にすることは無いぞ」
そう言って抱き上げる。
「わわ……シロウ、ちょっと恥ずかしい」
「良いじゃないか、家族なんだしさ」
「ううー……馬鹿」
そんな満面の笑みをされたら、何も言えないじゃない。
「まったく、ラブラブだな」
なにやら深刻な事態は終わったようで、張り詰めた気配は消え、遠坂嬢も屋根の上から降りてきた。
「……そっちのケもあったのか、あのジゴロは……むしろ食事を餌にして女を釣るのが主流なのか……ぬーん」
「でもうちの弟とか時々ああやってくれるけど……」
「由紀香、その弟君の年齢は?」
「高校生だけど……」
「……妹達ではなく君が持ち上げられている方かね」
「う……うん」
少し顔を赤らめながらも頷く。
衛宮家と言い三枝家と言い、大家族とはえてしてそう言う者なのだろうか、少し間違ってるんじゃなかろうか。
とりあえず三枝家の現状については気にはなるが後にしよう。
それよりも、ここでしかできない、今日しかできない人間観察こそ大事なことなのだ……
あ、イリヤ嬢が衛宮氏に頭突きのようにキスした。
「んなっ……イリヤッ……」
「いいでしょー、家族なんだし」
満面の笑みを返すのが見える。
飛び出したのは遠坂嬢、間桐嬢である。
やっぱり好意を隠し切れては居ないな、遠坂嬢は。
「イ、イリヤー! アンタはー!」
「ふーんだ、サクラならともかくリンに何か言われることなんかないもーん」
「そぉーう、イリヤちゃん、私には何か言われることがあると思ってるんだ……」
「さ、桜、落ち着くんだ、これはスキンシップみたいなものであってだな」
「黙っててください」
なんだろう、離れて聞いている私ですら身震いする程ドスが効いている。
これほどの凄みを持っているとは予想外である。
「良いじゃない、桜だってキスくらいするでしょ?」
「うっ……それはそうですけど」
「家族だものキスくらいするわ、ねーシロウ」
だがイリヤ嬢にドスはまるで効いていないようだ。
問い詰められて離れるどころか思い切り抱きついている。
「いやー、青春だーねー」
そう言って同じく覗き込むのは藤村教諭だ。
「いいんですか? 手塩に育てた弟君が修羅場の真っ最中だというのに」
「楽しそうだからいいのだー、そして最終的に姉である私がかっさらうのだー」
さりげなく問題発言をしている。
ある意味で壮絶な略奪愛である。
だがその根底にあるのは互いの、そして家族全員への信頼ではなかろうか、そう考え、少し心が暖かくなった。
最終更新:2007年05月21日 01:11