8 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/10/19(木) 00:38:19
――Interlude side Himuro
まず最初に知覚したものは、匂い。
目覚めは、嗅ぎ慣れない匂いへの戸惑いから始まった。
「……う……ん……?」
目を開く。
ぼやけた視界に映っていたのは、いつも見る自分の部屋の天井ではなかった。
眼鏡が無いと何も見えない、と言うほどではないが、ぼんやりとしかモノが見えなくなるのも確かだ。
だが、それを差し引いたとしても自分の部屋の天井を見間違えるはずがない。
「ここは……?」
視界ははっきりしないが、頭ははっきりしている……寝起きは悪いほうじゃない。
そのまま寝返りを打って、蒲団脇へと目を転じる。
……待て、蒲団?
蒔の字の家ではあるまいし、なぜ私が蒲団で……?
「鐘! 目を覚ましたのね!!」
他者の声で、思考から引き上げられた。
同時に、腹部に何かがのしかかってきたような重圧がかかる。
だが、私は抵抗しなかった。
その声には心当たりがあったからだ。
「雛苺……?」
「良かった……鐘……!」
重圧の正体は、やはり私にぎゅっとしがみついてくる雛苺だった。
反射的に抱きかかえていると、そこであることに気がついた。
……先ほど寝起きは悪くない、と自称したばかりだが、早くも撤回するべきか。
他人が同じ部屋にいたことに、今の今まで気がつかなかったのだから。
私に抱きついている雛苺と……そして、もう一人の人物に。
「おはようございます、鐘」
「貴女は……セイバー嬢、でしたか?」
目の前で微笑みかけている金髪の女性に、私は以前一度会った事がある。
海外から衛宮の家を頼ってやってきたというセイバー嬢だ。
かつて会った時には日本語も堪能で、礼節正しい好感が持てる人だった。
「はい。
身体の具合はどうですか?」
現に今も、正座の姿勢を崩すことなく私に応対してくれている。
……すごいな、この整った姿勢、蒔の字ですら舌を巻くぞ……いや待て。
そうではなくて、今考えられることは……。
「あ……ええ、身体の調子は大丈夫です。
少し頭がふらつきますが……大事無いでしょう。
それよりも……貴女がいるということは、もしやここは……」
「ええ、ここはシロウの家です」
「…………」
やはりか。
天井や畳から窺える純和風の造りに、布団という寝具。
なによりセイバーさんがここにいることから、そうじゃないかとは思っていたが。
「色々と聞きたい事はありますが……。
まずは、私の眼鏡の在り処を知りませんか?
あれが無いと、少々目つきが悪くなるもので」
長年の付き合いである相棒の行方を尋ねる。
もっとも、蒔の字に言わせれば私の鋭さは眼鏡つきでもさほど変わらないらしいが。
「それでしたら、枕元に。
ほこりを被るといけないらしいので、包んでおきました」
セイバーさんの指し示す先を見れば……なるほど、確かに枕元に白い布の包みが置いてあった。
手にとって解いてみると、中から見慣れた私の眼鏡が。
「ご丁寧に、どうもありがとうございま――」
眼鏡をかけた私は、そこで――。
α:ところどころ破れた制服を着ていることに気がついた。
β:猫柄のパジャマを着ていることに気がついた。
γ:桜色のパジャマを着ていることに気がついた。
δ:セイバーさんと同じ服を着ていることに気がついた。
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最終更新:2006年10月26日 03:39