29 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/10/19(木) 18:16:16
「ニャニャニャ!」
「ちょ……アルクェイド?」
前髪が限りなく焦げてるけどとりあえず気にしない。
俺は突然の奇襲を問い詰めるべく彼女がいると思しき方を向いた。
「ちっが~う! 言ったであろう志貴! 私は猫アルク! 断じてそのような綺麗で、見目麗しく、可憐かつお上品なお姫様ではなぁ~い!!!!」
いや、もう何ていうか…………自画自賛だろうが何だろうが勝手にしてくれ。
「ところで志貴、なぜ私がこのような悪ノリをしたか分かってくれるか?」
「誰が分かるか!!」
っていうか悪ノリって言ってる時点でそんなの計り知れるわけないだろ。
「それはだぁっ! 志貴! ユー自身に落ち度があるからなのだあぁぁぁ! だぁぁぁ……
だぁぁぁぁぁ……(一人エコー)」
「はぁ……」
猫アルクの真意が掴めず生返事をするしかない俺。ちなみに、弓塚は未だに無表情を保っている。状況が状況なだけにすごいな、とか思っている俺がいる。
「はぁ、などと悩ましげな返事など不要! いいか志貴! ユーはこの茶番劇の練習が始まってからというもの、
少しも私に構ってくれないではいか! まさに無礼千万、これまでにこの私が受けた数々の屈辱、我がグレイトキャッツガーデンにて万倍億倍にして返してくれる! 行け、我が眷属達!」
「っ!? ちょ、アルクェイ…………」
止めようとしたが時すでに遅し。猫アルクの右手に何やらネロとは違う混沌の魔力が宿り…………
それを、弓塚に握りつぶされた。
「ニャニャ!? さっちん何するにゃ!? 手を離すニャ!!」
「…………」
弓塚は言われた通りにスッ、と魔力を込めていた右手から手を離す。
が、表情はさっきまでと変わらず無表情のままだ。
「………………」
「あ~さっちん、どした? 薄幸に薄幸が重なってついにどん底にまで堕ちたか?」
さすがのアルクも心配になったのか弓塚を気遣う。
「なぁさっちん、元気出せよ。さっちんはルートがなかったからこそそこまでの地位を
確立したのだよ? 私が今こうして嵐を巻き起こすキャラになったのと同じようにニャ」
あ、自覚あったんだ。
「だからなさっちん、くよくよするな。
一時の時間ではあるがさっちんには今回の茶番に出番が回って来たではないか!」
何か普通に諭してる猫アルクが逆にシュールで面白いんですけど……。
と、
「……と、言うのは仮の心情! 本音は『きぃ~! 何で私が志貴と離れて稽古して
さっちんばかりと話してるの! 苛立つ! 許せない!』 という嫉妬深いお姫様の言付けを賜っているのだ!
そういうわけでさっちん! お前も今までのポジション通りわーきーやーくーにーなーれー!」
うわぁっ! やっぱりアルクは最後までアルクだっ!
「さぁ行くぞさっちん! かぐや姫の座を賭けて再び出でよ、我が……」
再び右手に魔力が込められる(というか俺の錯覚だろうか、右手の肉球から小さいアルクが顔を出したような気が……)。
しかし、
「ねぇ、アルクェイドさん?」
「ぎゃっ!」
右手の空想具現化一歩手前の魔力に臆することなく弓塚はアイアンクローをかましていた。
「私、帰りたいんだけど帰ってもいいかな……? 聞いてる?」
ギリギリ、と頭蓋骨が軋む音が聞こえる。
「あ……ハイ、聞いてます。万事滞りなく聞き届いておりますです、ハイ」
「そうよかった」
いや、弓塚。嬉しそうに言うならもう少し笑顔で言ってくれ、笑顔で。
「じゃあ、もう帰っていいよね?」
「ハイそれはもう寧ろ私めがリムジンなどをご用意をばしてウェルダンのキャットフードをご用意……」
「ううん、大丈夫。一人で帰りたいから。それじゃあアルクェイドさん、バイバイ」
そう言って弓塚はふっ、と力を抜いて猫アルクを開放した。
「じゃあね、遠野君。また明日」
「……………………あぁ」
俺はろくに返事をする事もできずにこの日最後の弓塚の姿を見送ってしまった……。
70 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/10/20(金) 13:54:32
「はぁ……」
教室に戻って秋葉達に先に帰ってもらうように言って、誰もいない教室で俺はため息をつきながら俺は今日の弓塚の態度をもう一度振り返る。
――――何?
冷たく俺から突き放そうとする弓塚。
――――大丈夫。一人で帰りたいから。
俺と一緒に帰るのを拒否した弓塚。一体何があったんだろう、まるで分からない。
「はぁ………………」
どうすればいいっていうんだよ……。
「大分お困りのようですね、志貴」
「…………シオン」
振り返るといつも通り毅然とした態度でこちらを見ているシオンがいた。
俺は思う所があって聞いてみた。
「なぁ、いい加減教えてくれたっていいだろ?」
「……さて、一体何の事でしょうか」
と、わざとらしく白を切るシオン。
「おい、シオン。もったいぶらずに教えてくれたって…………」
「志貴」
俺の言葉を遮るようにシオンは鋭く俺の名を呼んだ。
「悪いですがそれについてはお教えできません。言ったでしょう? 自分の事を考えればおのずと答えが分かる、と」
「だからそれが……」
「それに、今回の件は志貴にとっていい薬です。これを機に自分を見直すことをお薦めします」
言いたい事を言い終えたのか、シオンは踵を返してさっさと教室から出ようとしていた。
「お、おいシオンっ!」
「今日も稽古お疲れ様です、志貴。また明日も頑張りましょう」
「……………………」
ガラ、とドアの閉まる音が教室に響き渡る。俺はそれをただ呆然と見ることしか出来なかった。
「…………あ~ぁ」
俺は固い椅子の背もたれに体重を預けて大きく伸びをした。
「……………………………………ちくしょう」
気がつけば夕陽はとっくの前に沈んでいた。そろそろ帰らないと秋葉達が心配するだろう。
「よし」
俺は意を決して椅子から席を立つ。
俺の向かうべき場所は……
おおきく振りかぶって:皆が心配している屋敷に帰ろう
ガウガウわー太:街のどこかにいるはずの弓塚の所だ
イエスタデイをうたって:今日は有彦の家に泊まろうかな
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最終更新:2006年10月20日 17:45