261 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/10/24(火) 22:57:55
「うむぅ……」
「ん?」
廊下の向こう側から聞こえてくるうめき声。
その声に、私は聞き覚えがあった。
見れば、渡り廊下をふらふらと、どこか覚束ない足取りで歩いてくる女性がいる。
普段の学校での振る舞いとは天と地ほどの違いがあるが、間違いなくあれは……。
「遠坂、嬢?」
「げっ、遠坂……」
穂群原の制服に身を包んだ、遠坂凛嬢、その人だった。
「……ああ、そうか」
と、同時に引っかかっていた疑問が氷解する。
かの遠坂嬢の衣服の趣味は、確か赤色だったはず。
そして、私が着ている服にも、それと共通のセンスが窺えるのだった。
なるほど、セイバーさんの言っていた『とある女性』とは遠坂嬢のことだったか。
「……なによ、人の顔を見るなり『げ』って。
朝からご挨拶じゃない、衛宮君」
「う、すまん。
それにしても遠坂、今日はやけに早いんだな?」
「ええ、正確には早いというよりも寝ていないのだけど。
ちょっと気になったので調べ者をしていたら、これが意外と曲者でね。
大して収穫も無いまま、夜が明けてしまったわ」
遠坂嬢は相変わらず物腰が丁寧で、隙がない。
……おや?
衛宮が妙な顔をしているが、どうしたのだろうか。
まるで、いつもと同じ饅頭だと思って食べてみたら、中身が違っていたかのような。
「っと、おはようございます氷室さん。
そういえば昨晩はこちらにお泊りしていたんでしたね」
「あ、ああ……」
曖昧な返事を返す。
疑問が一つ氷解したと同時に、私の頭に新たな疑問が浮上したのだ。
――なぜ遠坂嬢が衛宮の家に?
時刻は五時を回ったところ、こんな早朝から他人の家を訪れる理由などそう多くは無いだろう。
「昨日は突然倒れたところを衛宮君に介抱されたそうですね。
一時はどうなることかと………………げ」
私に相対して口上を述べていた遠坂嬢は、その途中で言葉を失った。
……自分で衛宮に注意したばかりなのに、他人を見て『げ』は無いだろう、遠坂凛。
「おはよう、遠坂嬢。
しかし、なぜ君が衛宮の家に居るのだ?」
「…………えーと、その前に氷室さん、ちょっといい?」
「む?」
遠坂嬢が私に接近して、耳元で口に手を当ててきた。
……衛宮には聞かれたくない話か?
「……実はその服、私の私物から選ばせてもらったんですけど」
「ああ、やはり……」
「ええ、それで正直に答えて欲しいんですけれど……」
一旦言葉を切って、遠坂嬢は重大なことを告発するように質問した。
「サイズ、合ってないですよね?
氷室さん、今、どれくらいなの?」
「む……大体…………が…………で、…………くらいだが」
ことさら小さな声で遠坂嬢に伝える。
すると、ひどく驚いた様子でがばっと顔を凝視された。
「嘘、綾子より大きい!?
……氷室さん、意外と着痩せするタイプなのね」
「……あまり大声でそういうことを言わないで欲しいのだが」
小声で言った意味がないではないか。
「鐘たち、何のお話をしてるのー?」
「さあなー。
ほら雛苺ー、マルかいてチョンでコックさんだぞー」
一人蚊帳の外になっていた衛宮が、雛苺と遊んでいてこちらの会話に注目していなかったのが救いか。
だが庭の土に絵描き歌はどうかと思うぞ、衛宮。
262 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/10/24(火) 22:59:55
「ああ、申し訳ありません。
つい驚いてしまいましたが、そうですか、そんなに……。
富める者はさらに富むということでしょうか。
正直妬ましいです」
…………!?
今、一瞬だけ遠坂嬢の仮面が外れたような気がした。
次の瞬間にはいつもの遠坂嬢に戻っていたが。
「しかし、そうなると私の服を無理矢理押し付けているのも悪いですね。
間桐さんかライダーさんの服なら、ちゃんと着られるでしょうから、後でそっちを借りましょうか」
「……すまない、お願いする」
と、そこで、私の質問が答えられていないことに気がついた。
「話を戻すが。
なぜ遠坂嬢が衛宮の家に?
まさか二人がそこまで深い仲だとでも……」
…………深い仲。
自分でそう口にした途端、胸の奥がズキンと痛んだ。
……なんだろうか、なにか面白くない。
しかし、私のそんな勘繰りは、遠坂嬢本人の言葉で否定された。
「いえ、誤解なさらないでください。
……実はお恥ずかしい話なのですが、以前私の自宅が老朽のため、全面改修をやむなくされた事がありまして。
そのときに仮の住まいの提供を申し出てくれたのが、衛宮君だったんです」
「……よくそんなに口が回るな痛ってぇ!?」
何か言いかけていた衛宮が悲鳴をあげて蹲る。
私から見えない位置でなにかやられたらしい。
「藤村先生の目が届く衛宮君の家ならば、安全だろうということで、荷物を携えてこちらにご厄介になることになったんです。
その後、改修は無事に終わったんですが、こちらの家での暮らしに慣れてしまいまして、今でも頻繁にこちらに泊まらせてもらっているんです。
そうよね、衛宮君?」
「……はい、そういうことになってます」
腹を押さえながら震えている衛宮が、必死で首を縦に振る。
なるほど、そういう事情か。
察するに、話の全てが真実だとは思えないが、それでもある程度の納得はいった。
「納得してもらえたようでなによりです。
ああ、随分立ち話が長くなってしまいましたね。
そろそろ居間に行きましょうか」
気がつけばかれこれ十分以上廊下で話し込んでいた。
遠坂嬢の至極真っ当な提案に反対する理由も無く、私たちは衛宮家の居間へと移動した。
以前来たときは衛宮の私室に通された私にとっては、居間を訪れるのは初めてとなる。
「おはよう」
「よ、みんなおはよう。
藤ねえはまだ来てないのか」
「あ、おはようございます。
藤村先生とイリヤちゃんはまだ来てないですね」
居間には既に幾人かの先客がいて、各々がくつろいでいるところだった。
特筆すべきはその全員が美人と言って差し支えない人物ばかりであるということだろうか。
台所の間桐嬢、お茶を淹れているセイバー嬢、テレビを見ているライダー嬢。
今やってきた遠坂嬢も含めて、全員方向性は異なれど美女、美少女の呼び名に相応しかろう。
その中でも一際目を引くのが……。
「あ、もう起きてたのか……水銀燈」
衛宮のドールであるらしい、水銀燈という薔薇乙女《ローゼンメイデン》。
彼女は……。
α:衛宮の姿を見ると、すぐにこちらへやってきた。
β:間桐嬢の後ろで朝食の準備を眺めていた。
γ:セイバーさんと一緒にお茶を飲んでいた。
δ:ライダーさんと一緒にテレビを見ていた。
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最終更新:2006年10月26日 03:44