301 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/10/26(木) 02:25:24


 繰り返すが。
 彼女……水銀燈は、その居間の中において一際目を引いていた。

 それは、彼女の着ている服装が和式の居間という空間に置いて明らかに浮いている、などという理由では決して無い。
 彼女が取っているポーズ、それが彼女をこの場所から浮いた存在にしていたのだ。
 間桐嬢の料理には興味を持たず。
 セイバー嬢の差し出すお茶には手をつけず。
 ライダー嬢の付けるテレビ番組には目も向けない。

 テーブルの片隅で、誰からも背を向けて一人座っていた水銀燈は、衛宮が居間に入ってきたことで、ようやく、その重い口を開いた。

「……遅いわ、士郎」

「ごめんごめん。
 でも、ちゃんと顔を出してくれたんだな」

 じろり、と衛宮を睨みつつ凄む。
 対する衛宮はさして動じた様子も無い。
 もはや慣れっこだと言わんばかりだ。
 ……つまり、あれが彼女の平時の態度なのだろうか。

「……別に。
 士郎がどうしても来いって言うから、仕方なく居ただけよ」

 ぷい、と顔を背ける。
 しかし、それが虚勢であることは、他人である私にだってわかる。
 流石の衛宮も、その言葉を額面どおりに受け取りはしなかったようだ。

「うん、それでもさ。
 来てくれないんじゃないかって思ってたから。
 朝飯を一緒に食べてくれるってだけで、嬉しいんだよ」

「……そんなことでいちいち喜ぶなんて、馬鹿みたぁい。
 仲良しゴッコがそんなに楽しい?」

「む。
 その発言は聞き捨てなりませんね水銀燈」

 水銀燈の言葉に、それまで静かにお茶を飲んでいたセイバー嬢が反応した。

「シロウはこの家に住むもの全員を、家族として扱っているのです。
 家族とは、表面上だけ取り繕ってどうにかなるものではない。
 ゴッコなどでは断じて有りません」

「そうですね。
 士郎は家に入ってきた者は、総じて身内の扱いをしますから。
 私も最初は戸惑いましたが、今ではそれも心地よいと感じられます」

 セイバー嬢に続けて、ライダー嬢の援護が入る。
 思わぬ方向から反論されたせいか、水銀燈が不機嫌そうに唸った。

「なによぉ、なによぉ。
 家族家族って、血も繋がって無いくせに……」

「まあ、それを言ったら、俺と親父だって血の繋がりは無いんだし。
 だからみんなは家族だし、家族だったら仲良くしてるのが当然だ。
 ……うん、水銀燈だってもう家族なんだからな」

「……………………」

 衛宮にそう言われて、水銀燈は一瞬惚けたように言葉を失い、次にどこか居心地悪そうに目線を泳がせた後。

「……ふん、本当に処置無しね、貴方。
 もう勝手にしなさい。
 水銀燈はもう、どうでもいいわぁ……」

 と、面倒くさそうに話を投げてしまった。

「むう……」

 思わず唸ってしまう。
 水銀燈のあの、衛宮の言葉にだけは素直に引き下がる態度。
 家族、と呼ばれたときの過剰ともいえる反応。
 それらの要素が、私の中にある仮定を構築していく。
 これは……もしかすると、もしかするのか?

302 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/10/26(木) 02:28:26


 そのとき、やり取りの一部始終を私の隣で見ていた雛苺が、目をパチクリさせながら呟いた。

「うわぁ、水銀燈、なんだか変わったのね……むかしはもっと、チクチクって怖い子だったのに」

 半ば独り言のような呟きだったが、水銀燈はそれを聞き逃さなかった。

「聞こえてるわよ、雛苺。
 ……今すぐジャンクになりたいの?」

「ひぅっ!?」

 肩越しに水銀燈に睨まれた雛苺は、衛宮のように受け流すことも出来ずに縮み上がる。
 私の背中に隠れてしまった雛苺をかばいながら、私は……ここに来てようやく、水銀燈と相対した。

「水銀燈とやら。
 あまり雛苺をいじめないでくれないか?」

「……なぁんだ、貴女もいたのぉ?」

 すると水銀燈は、あたかも今ようやく気がついた、とでも言いたげに私のほうを見た。
 その目は先ほどまでとはうって変わって、冷たい。

「でも、貴女には用はないわ。
 邪魔だからあっちいってくれるぅ?」

 何故か、私は彼女からは好かれていないようだ。
 ふと、先ほどの仮定が脳裏をよぎる。
 ――本人が気付いている、いないに関わらず、水銀燈が衛宮に好意を持っているのなら。
 それは私にとって、恋敵、という奴なのではないか?

 ……その仮定に、急速に胸が詰まった。
 それが何故なのかを考える前に、次の瞬間、信じられない事が起こった。



久しぶりにダブルクロスルール
一人1記号、第一群と第二群のどちらかに投票するべし。
両方に投票した場合は無効とした上でくんくん引き回しの刑。


第一群
α:私は咄嗟に――
β:水銀燈が素早く――
γ:二人同時に――


第二群
δ:衛宮の腕を掴んでいた。
ε:「――っ、士郎!」と彼の名前を呼んでいた。
ζ:相手の頬をつねっていた。

投票結果

第一群

第二群

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最終更新:2006年11月17日 21:33