290 名前: ブロードウェイ ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/10/25(水) 16:55:32
「ワラキア……」
屋上でおちゃらけていたの時とは違う、正真正銘の「二十七祖」としてのワラキアの夜がそこにいた。
「…………あなた、誰?」
弓塚は冷然と問う。どうやらついさっき出会ったばかりのようだ。
「ふむ、初対面の女性に対して突然現れるのは失礼だったかな、蛇の娘よ」
「…………どうしてそれを?」
「ふむ、中々いい表情をするではないか、これなら舞台映えもするだろう」
いまいちかみ合わない会話を俺は物陰からずっと聞き込んだ。
「あなた…………一体何を」
「これまた失礼。どうも興奮すると我を忘れる性質でね、許してほしい。
さて前置きは抜きとして本題といこうか蛇の娘よ。単刀直入に言うが君は今回のタタリの対象となった」
――――――何だって?
「タタリ……?」
「簡単に言うと君の『もしも』という望みが叶うようになるという事だ。
ただ、私の望みもついでに叶えてもらう形にもなるというだけで」
嘘だ。タタリはお前の望み、というか殺戮こそ叶えることはあっても弓塚の望みなんて叶うはずない。
俺はいつ飛び出すか機会を窺って様子を見る。
「わたしの望み……」
「何と言ったかな、あの少年。彼ももう少しで素晴らしい殺人鬼になれたというのに」
「……っ! 遠野君に何をしたの?」
突然弓塚が表情を歪める。それと同時に瞳の色が一層紅く染まる。
「おっと誤解しないでくれたまえ。彼と殺し合うには少々分が悪いのでね、さすがの私も
彼を敵に回すことなどしたくはない」
「………………」
弓塚はいつでも動けるようにやや重心を落としてワラキアを警戒している。
が、当のワラキアは動物をあやすかのように冷たい笑みを浮かべていた。
「竹取物語、といったかな。今回真祖達と演じる舞台というのは」
「…………」
「重ね重ね失礼、先日あの少年に会ってね。少しばかりなら事情を察しているという次第なのだよ。
どうかね、私の力を借りてみないか?」
腕を広げて親交の意を示そうとしているのか、ワラキアは依然として薄い笑みを顔に貼り付けている。
大して弓塚の表情は固く、拳を強く握っていた。
「あなたの力を借りて、あなたは一体どんな見返りを求めようとしているの?」
「ただの老婆心だよ、蛇の娘よ。演劇狂のやっかみと取ってもらっても構わない。
私はただ見るに値する舞台を作りたいだけさ。…………今の所は」
「………………」
「………………」
数秒、あるいは数十秒数分の間が裏路地に流れる。俺はいつの間にか汗を浮かべて壁に張り付いていた。
そうして弓塚が口を開き、
「どうして?」
「……どうして、とはなぜ自分がタタリの対象に選ばれたか、という事かな? それならば至極単純だよ。
君は彼に懇意にされているようだからだよ。ついでに言うと、シオンとも浅からぬ仲のようでもあるようではないか」
「……遠野君が優しくしてくれるのは私と舞台の上で絡む事が多いっていうだけで」
不意に、弓塚の言葉が胸に刺さる。一瞬心が動揺しかけたがすぐに俺は心臓の鼓動を静めた。
「そうなのか? …………まぁいい。君の答えがどうであろうと結局は変わらないのだがな」
「……え?」
「既に私は、君に取り憑いているのだからな」
俺の体が沸騰したかのように熱くなる。
そして俺は…………
死に損ないの奴隷:ワラキアに駆け寄る。
天楼の傍観者:……いや、まだ早い。
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最終更新:2006年10月28日 13:41