401 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/10/28(土) 14:14:30
私は咄嗟に、衛宮の腕を掴んでいた。
……誓って言うが、この時の行動は、何かを考えて行なったのでは断じてない。
ただ、反射的、とか発作的、とかそういうものではなかったと思う。
胸のうちに積もり積もった、もやもやした何かが一杯になり、それが噴出した……としか言いようが無い。
――その瞬間、私の中の未発達な部分が囁いた。
これは本能。
好きな人を渡すまい、取られまいと願う、女の子の本能なのだと。
衛宮が何かを言うより早く。
水銀燈が何かをするよりも早く。
私は、掴んだ腕をそのまま引き寄せて……。
ぎゅっ。
抱きかかえるように、腕を絡めた。
「なっ……!?」
「っ……!!」
「あ……」
驚愕、絶句、呆然。
その場にいた人々の反応は様々だったが、その中で一番驚いていたのは他でもない、私自身だっただろう。
なにしろ、自分が何をしたのかわからない。
気が付いたら衛宮の腕にしがみついていたのだから。
「……ふうん。
衛宮くんったら、いつの間にか随分氷室さんと仲良くなってたのね?」
その場にいた人物の中で、もっとも立ち直りが早かったのは、やはりと言うべきか、遠坂嬢だった。
「でも意外ね。
氷室さんがこんなに積極的な方だったなんて知らなかったわ。
……ええ、本当に」
「……え?
あ、いや……え?」
「ひ、ひむ……ろ?」
対する私はと言うと、まだ混乱から立ち直っておらず、自分の腕と衛宮の顔、そして水銀燈を交互に見比べているばかり。
衛宮のほうもそれに負けず劣らず混乱しているようで、お互いに間の抜けた声で至近距離から見詰め合う私達。
「……そういえば昨日の家族会議、こちらの案件に関しては保留のままでしたね」
「まあ、士郎がカネを抱きかかえて帰ってきた時点でこうなる予感はありましたが」
「シロウ、またですか……」
他の人々は続々と立ち直ったらしく、私達二人に剣呑な視線を送ってくる。
もし平時の私であったなら……そしてこれが他人事であったなら、私だって彼女らと同じようなリアクションを取っただろう。
そして、立ち直るのが一番遅かった水銀燈は。
「…………へぇえ。
そこまで士郎にイカレちゃっているとはね。
けど……」
と、そう言って……。
α:「ま、まあ私には関係ないけどぉ?」と、目を逸らした。
β:「けど、その程度で勝ったつもり?」と、衛宮に顔を近づけて……。
γ:「まずはとっとと離れなさぁい!!」と、引き剥がしにかかった。
δ:「――ふ。ふふふ、うふふふふ……」と、俯いたまま肩を震わせて笑いだした。
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最終更新:2006年10月28日 15:18