518 名前: Double/stay night ◆SCJtHti/Fs 投稿日: 2006/08/26(土) 11:42:19
とすん、と。ナイフが胸元に吸い込まれた。
それで終わり。俺の命は霧散して、人生はあっけなく幕を引いた。
死神はついにその姿さえ見せず、完璧な仕事で俺の命を消してみせたのだ。
死を司る瞳に例外はなく、気がつけば俺の命も刈り取られていた。
遠のいていく意識。背中にかばった大切な誰かが、恐怖に息をのんだ気がした。
最後に抱き締めたそいつの肩は、捨てられた子猫のように震えていた。
切り離された意識はこの世に留まれない。浮遊感とともに沈んでいく。どこか遠くへ。
遥か深くへ。おぼろげで胡乱な旅路の遥か、暗い暗い深層の向こう、錆色の空が覗いた気がした。
そういえば、俺の人生はこれで終わりなのか。そうなのだろう。
正義の味方もこれで終わりだ。短かったようで長かった一時。
たとえ志半ばだったとしても、決定した結末は受け入れなきゃいけない。
そう、たとえ大切な人を置き去りにしまったとしても……。
「―――――――――」
今、誰かの声が聞こえた、……気がした。気がしただけだ。情けがない。
まだあの世界に未練があったのか。死と隣り合わせで駆け抜けた時間。
あの日々の一日も、こうなる覚悟をしなかった日はなかったというのに。
そして、俺の魂は旅を終え、ついにこの場に着地した。
ここは俺の世界を模しているのか。
俺とあいつだけの荒野。寂びゆく無限の剣の墓場。何も生み出さない世界。
ここが、俺に割り当てられた座なのだろうか。
分かっていた事だ。生前の契約に由来する使命。守護者としての俺が今から始まる。
それが、何を意味するのか分かっている。あいつはそれで磨耗した。俺もきっとそうなるのだろう。
いや、一瞬先の俺こそが、あいつそのものなのだろうから。
それでも、それでも俺は、誰かの為になれるなら満足なんだ。たとえ、その先に、無限の絶望が待受けていたとしても。
空に浮かぶ歯車が動き出し、無限の刹那が瞬こうとしたその時―――。
壱 凛々しいセイバーが隣にいた。
弐 遠坂に思いっきり殴られた。
参 桜にそっと抱き締められた。
四 イリヤの寂しそうな笑顔が見えた。
伍 ライダーに見守られている気配があった。
六 涙目のルヴィアに頬を打たれた。
七 カレンが冷たく見下していた。
八 そこまでにしておけよ藤村。
最終更新:2006年09月13日 03:23