535 名前: Double/stay night ◆SCJtHti/Fs 投稿日: 2006/08/26(土) 14:39:49

「―――最低」

 エミヤのパートナーが開口一番口にする台詞は常に決まっていた。
今回の彼等もその例に漏れることはなく、
結果として彼の唇は皮肉を染み込ませた笑みの形に釣り上げられる事になる。

「珍しく自分の意志を行使できると思ったら、
こんな、欲望にまみれた駄犬達のじゃれ合いに参加させられるなんて。
……貴方のせいよ」

 召喚の余波でバラバラになった家具の破片を冷たく眺めながら、
カレンはいつもの仏頂面で毒づいた。
要するに、何もかも気に入らないらしい。珍しくもない事だ、とエミヤは肩をすくめた。
しかし、それを受け入れるのも彼女の常だった。
恐らく、彼女を召還した主がどんな理不尽な命令を下しても、
カレンは淡々と受けいるつもりだろう。
毒舌というナイフで相手の精神を切り刻みながらかもしれないが。

 さて、とエミヤは気を取り直す事にした。状況の確認をしておきたかったのだ。
もし必要があれば、即座に契約を断ち切らなくてはいけなかった。
もしもカレンに災いをなす主であれば、令呪を使われる前に処理しなければいけない。
他人からの全てを受け入れてしまう、なんて信じられない性質を持つ難儀なパートナーを選んだ代償だった。
一方的で勝手な思い込みでしかないが、エミヤはカレンを守らなければいけない。

「……ここ、見覚えがある気がする。なあ、カレン。あんたは何か憶えてないか?」
「記憶にありません。おおかた貴方が通っていたどこかの女の家でしょう」
「ひどいな。今も昔も俺はカレン一筋だぞ」
「そいういう台詞はせめて相手の目を見ながら吐いてはどうです、衛宮士郎」
「………………」

 無惨な姿に変わってはいるが、部屋の内装には懐かしさを感じた。
生前縁のあった場所だろうか。断片をおぼろげにしか思い出せないが、
エミヤを呼び出せるだけのかかわりを持った魔術師といえば数えるほどいない事ぐらいは分かっている。
そしてその中で一番可能性が高いのは、
既に名前すら思い出せない赤い少女だという事も―――。



 時刻は既に深夜。アルバイト帰りの衛宮士郎は。人をひとり拾ってしまった。
残業で遅くなり足を向けた路地裏に、見知らぬ女性が倒れていたのである。
どうやら外国人らしく少々戸惑ったが、紅の血でよごれた衣装を見てしまっては見過ごす事などできはしない。
すぐに救急車を呼ぼうとしたものの、息も絶え絶えな本人がそれだけはやめてくれと固辞している。
何か事情があるらしい、と士郎は考えた。

「なにか事情があればいってくれ。できる限り力になるから。
言いたくなければそれでもいい。知り合いに、こんなとき頼りになる人達がいる。
もしよければそこに連れていってあげるから」

 女性は士郎の親切に礼をいい―――
壱 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと名乗った。
弐 バゼット・フラガ・マクレミッツと名乗った。
参 ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと名乗った。

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最終更新:2006年09月13日 03:23