369 名前: ひとりぼっちの聖杯戦争 ◆IkOakw2geY [sage この話は BAD END が多いので注意] 投稿日: 2006/10/28(土) 08:40:18
一、夜中、もう一度調べてみる。
1人きりの魔術師、
存在しない使い魔、
……生き残るのは―――。
今夜の月は、なぜか禍々しくて寒気がした。まるで、無気味な笑いのような明るい月影。嫌に作り物めいた夜空を見上げて、俺は暑い街へと踏み出した。
冗談のような熱帯夜が続くせいなのか。不吉な噂のおかげなのか。夜の冬木に人影はほとんど見当たらず、新都まで足を伸ばしても風が静かに流れるだけ。
……あるいは、俺の錯覚かもしれないけど。
今夜のビル街は、ヒドク、おかしい。三流映画のセットのような、冷たく小さな箱庭のような、もしくは精巧な影絵のような歪んだ空気。建物は確かにそこにあるはずなのに、無機物の気配さえしなかった。
「―――なんだ、これは」
ビルの外壁に触れて思わず声がもれる。コンクリートの感触がある。だけどコンクリートの感触が感じられない。そこに確かにあるのに実感できないもどかしさ。反射的にその構造を解析してしまったけど、なんで―――、
―――何一つ、異常が見当たらないのだろうか。
「……なんでさ」
これじゃあ本当にお手上げだ。例えばストーブを修理するとき、異常があるからこそ直す事ができる。こんなに完璧に、当たり前のように正常だったなら、この街の異変は異変ですらないと言う事になるのではないだろうか。
いや、もしかすると俺なんかでは気付けない、そんな隠されたなにかが―――。
「違うって。この街は本当に正常よ。異常があるとしたら、それはアナタ達の方でしょうね」
突然の声に振り向いた。らしくない。俺は心臓が破裂しそうなほど驚いている。この声、この喋り方、そして何よりこの雰囲気。忘れるはずがない。だって彼女は、ほかならぬ俺が殺したんだから。
「……とお、さか?」
「なによ。幽霊を見たような顔しちゃって」
夏だというのに赤い長袖。二つのお下げが頭に揺れて、黒いミニスカートが眩しい姿。間違いない。彼女は俺が殺したあの日、あのときの格好のままここにいる。
「おまえ、なんで?」
思考が急に冷えていく。吐き気がする。首筋が痛い。二度とあえないはずの友人との、せっかくの感動の再会だってのに、なんでこんなにも、俺の手は震えているのだろう。
「なんでっていわれてもね……。そうね、士郎に会いたかったからじゃいけない?」
その仕種、その表情は間違いなく懐かしい遠坂のそれで、だからこそ俺は怖くなった。だってそうだろう。ずっと憧れていて本性を知ってそれでもいい奴だった遠坂の笑顔は、俺がこの手で砕いてしまったのに。
だったら、これは都合のいい幻なのか。
「―――遠坂?」
「なによ」
「お前は本当に遠坂だよな」
「……おかしな事を聞くのね。わたしがわたし以外の何に見えるっていうのよ。士郎、アンタ大丈夫?」
―――その返答で、心は決まった。
一、俺がもう一度遠坂を殺す。
二、少し話をしたい。
三、もう一度桜に会いたいんだ。
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最終更新:2006年10月28日 13:55