500 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/10/31(火) 18:29:42

 次の日、放課後にいつものメンバーが集まる。まだ来てないのは弓塚と晶ちゃんとアルクェイドか……。
 晶ちゃんが来るまで稽古は始まらないだろう。俺は、

「シオン、ちょっといいか?」

 その中にいる一人に声をかけて教室の外に出るように促す。
 それに従いシオンも素直に俺の後をついてきてくれた。

「何か用ですか、志貴?」

 教室からいくらか離れた階段の踊り場でシオンが話しかけてきた。これくらい離れていれば問題ないだろう。俺は振り返って切り出した。

「ワラキアがまたタタリを始めてる。シオンは知っていたな?」
「………………」

 余裕を残していたシオンの目がきつくなる。何も言わない代わりに睨むようにして俺の表情を読み取ろうとしている。

「…………どうやら、会ったようですね」
「あぁ。昨日はたまたまだったけど、その前にも……な」
「タタリは何か言っていましたか?」

 今度はシオンが訊ねてくる。この様子だとワラキアが復活したのは知っているが、まだシオン自身は確認していないようだ。

「俺達の劇にちょっかいかけたいんだとさ」
「…………は?」

 俺はありのままにワラキアの言を端的に言うと、シオンは目を丸くして俺を見ていた。

「えっと…………志貴、またこの町を殺し尽くそうとするとかそういうのではないのですか?」
「あぁ、今はタタリの欠片しか残ってなくて人を殺すのも厳しいらしい」
「………………」

 シオンは何やら難しい顔をして考え込んでいる。それから俺は自分が知っている最近の出来事をすべてシオンに話した。
 そして、今回のタタリの対象者が弓塚だというと、

「タタリがさつきに?」

 ある程度予想していた反応が返ってきた。シオンは更に表情を渋くする。

「今までの話を聞いていてシオンはどう思う? 恐らくアイツは舞台の本番当日にタタリを完成させるはずだ」
「えぇ、話からするにそれは確実でしょう。ですが、それにしては期間が長い」

 言われて俺はその事に気づいた。前回ここで起こったタタリは一週間程度だったのに今回は一ヶ月も先の文化祭。

「どうしてそんな長い期間を……」
「恐らく本来あった計算を捻じ曲げてまでタタリを起こそうとしたからでしょう、必要以上に時間がかかるのだと推測されます」
「なるほど」
「もしくは……」
「ん?」
「………………いえ、何でもありません。とにかく、今志貴が話したことが全て真実なら今はワラキアを捜索しても恐らく逃げられるだけでしょう。
 ワラキアも力が弱まっているようですし、今はワラキアが夜に出現する事もないと思われます。捜索自体は私も独自でやりますがそれらしい効果は望めないでしょう」

 シオンは何か言おうとしたが首を振って口を噤んでそう結論づけた。少し気になったがシオンはシオンの考えがあるのだろう。

「なぁ、昨日の弓塚の様子もワラキアが原因なんだろ? シオンはワラキアの力が弱まってるっていうけど本当にそうなのか?」

 俺が責めるようにシオンに聞くとシオンは分からないと言った風な顔でこちらを見ていた。

「昨日の様子…………というと?」
「だから、昨日一日ずっと静かっていうか誰とも話さなかったっていうか…………何か皆から遠ざかってただろ?」

 俺が説明するとシオンは、

「…………………………ぷっ」

 いきなり相好を崩して吹き出した。

「…………シオン?」
「っ、すみません。あまりにも志貴がさつきに対してそれほど気にかけていたんだと思うと……」

 えーっと…………とりあえず何でそんなに悠長にしていられるのか説明してくれるとありがたいんだけど。

「取り越し苦労ですよ志貴。今日のさつきはいつも通りです。まぁもし昨日と同じ様子でも…………とにかく会えば分かる分かります。では私は先に行きます」
「………………」

 納得もいかないまま俺は一人他に誰もいない踊り場で呆然と立ち尽くす。
 え? 何? 説明好きのあなたらしくないですよシオンさん?

 ……………………。
 ………………。
 …………。


 とにかく会えばいいんだろっ!
 俺はなかばヤケになってズンズンと教室へと足を鳴らした。そして、勢いよくドアを開け放つ。

501 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/10/31(火) 18:30:31


「おう遠野、遅かったな」
「兄さん、どこに行ってたんですか?」

 有彦、そして秋葉に声をかけられる。俺は適当によぉ、と返して目線は教室のどこかにいるであろう弓塚を探して……。

「遠野君、どうしたの?」
「っ」

 不意に背後から探し人の声がして俺はすぐに振り返った。
 そこには、シオンが言ったように以前の柔らかい雰囲気ではにかんでいる弓塚がいた。

「…………弓塚」
「うん。どうしたの?」
「…………」

 よかった。ワラキアに完璧に取り憑かれたのかと心配していたけど、そうじゃなかったようだ。
 俺は思わず抱きしめたくなるのを必死で抑えた。

「あ、晶ちゃんも一緒だったんだ」
「……お兄さん、それ、結構ひどいです…………」

 弓塚の隣にいた(本当に気づかなかった)晶ちゃんが拗ねた目で俺を見る。

「ごめんごめん。いやね、昨日の弓塚の様子が変だったからさ、もしかしたら何かあったのかもって……」
「え……」

 弓塚がいきなり赤面して声を漏らす。と、弓塚の代わりに晶ちゃんが、

「あぁ、あれですか? あれはかぐや姫の役作りの一環ですよ。お兄さんには言ってませんでしたっけ?」
「…………………………はい?」

 どこからそんな間抜けな声が出ているのかと思ったら、それは俺の口から出ていた。

「かぐや姫の性格ってある意味、弓塚先輩と正反対じゃないですか。人嫌いでどこか人を馬鹿にしているみたいで。
 だから弓塚先輩には一日かぐや姫を「演じきって」もらって過ごしてもらったんです。意識が足りなくて稽古の最初の時は時々地が出ちゃってたみたいですけどね」

 役作り。俺の頭の中でその単語がぐるぐると回っている。そして、その単語が妙にリンクする。

 そういえば昨日の稽古前に会った時、いつもの弓塚の感じが一瞬にしてあぁなったような……。
 アルク(猫アルク)との時だって妙に人と関わるのを拒んでたような気が……。



 あー、
 もしかして俺、昨日の夜の探索って無意味だった?


 俺は安心した反面どっと疲れが襲ってきた。
 と、安心したのも束の間、

「………………っ」

 突然焦点がぼやける。そう思った時には俺は床に膝をついていた。

「ちょ…………と……君…………!?」
「……ぱい…………大……すか?」
「早…………ほ……室に……!」

 誰かの腕が俺を支えている感覚以外すべてが曖昧な世界。
 俺は、
    そうして、
         意識を失った。




「………………ん」

 自分のうめき声で目を覚ます。まだ頭がぼぉっとしているせいか、体の感覚がいまいちしっくりこない。
 消毒液のにおい、恐らく保健室のベッドだろう。

「あ、遠野君。目が覚めた?」
「………………弓塚? ………………っ」

 うっすらと目を開けた瞬間、俺はひどい頭痛で一気に目が覚めた。
 普通の人が見えるにはあまりにも不自然な黒い線。保健室という真っ白な場所にあまりにも不釣合いで、どこか納得のいくものだった。

「あ、ごめん遠野君。ハイ、眼鏡」

 思わず目を閉じて眼鏡を手探りで探す俺の右手にそっと弓塚の手が重なる。
 わずかに温かい、それは今の俺を落ち着かせた。

「あ、あぁ…………わざわざ悪い」

 礼を言って俺は上体を起こして眼鏡をかけ、俺は改めて弓塚と向き合った。
 そこには、



 千年の恋の仕方:微笑んで俺を見ている弓塚がいた

 醒めない夢の見方:目を真っ赤に腫らした弓塚がいた

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最終更新:2006年11月01日 02:39