562 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/11/03(金) 14:29:55

「………………」

 保健室の窓に一番近いベッド、そこで橙の陽射しが弓塚の顔を照らしている。
 俺は照らされた笑顔を見た瞬間、大きく鼓動が鳴ったのを覚えた。

「…………大丈夫? 遠野君」
「え…………あ、あぁ」

 雰囲気と違っていつも通り弓塚の通る声が俺に問いかける。俺はそんな事でも変に緊張して目を逸らした。

「もしかして、弓塚がここまで?」
「うん。倒れてすぐの時は皆でって思ったんだけど、これから稽古だし遠野君に変な気を遣わせるのは駄目だ、ってシオンと晶ちゃんが」
「…………そっか」

 二人がどのように秋葉や翡翠を説得したか目に浮かぶ。だから他の皆はここにいないのか。
 俺は苦笑混じりで返事を返した。

「……にしても俺、ダメな男だな。女の子に運ばれるなんて」

 少しばかり考えて俺はそう一人言のように漏らした。
 弓塚は普通の人間じゃないとはいえ、やはり女性にみっともない姿を世話してもらうのは男として嬉しいものではない。

「ううん、そんな事ないよ。全然重くなかったし」
「………………」

 それはそれで哀しいものがあります、弓塚さん。

「さ、俺はもう大丈夫だから皆の所に行こうか」

 正直あまり体調はよくない。が、皆に迷惑をかけるのは避けたかった。

「だ、駄目だよ遠野君、まだ顔色よくなってないよ。無理しないでちゃんとよくなってから行こう? わたしも遠野君はきっと無理するだろうからちゃんと看てあげてね、って皆から言われてるし」

 あっさりと俺の体を見抜かれて弓塚は俺を止めようと手で制する。

「……オーケー、分かった。ゆっくり休ませてもらうよ」

 弓塚の目が絶対に行かせないと言っているので俺は諦めて肩をすくめてみせた。

「にしても本当に悪いな、弓塚。稽古に行きたいのにわざわざ……」
「ううん、いいの。わたしは遠野君と一緒にいたいから」
「………………弓塚?」
「あっ…………い、今のはちょっとした何ていうか……えっと…………」

 突然しどろもどろになりながら必死に何か言い訳の言葉を探す弓塚。俺は思わず口の端を上げて静かに笑った。

 そして、

「………………………………弓塚」
「え?」

 自然に、ごくごく自然に弓塚の頬に触れた。

「俺も、弓塚がここにいてくれてよかった」
「………………」

 触れた瞬間驚いたのかピクリと震えたが、俺の真剣な目を見て金縛りにあったように抵抗をみせない。

「………………」
「………………」

 今俺はどんな顔をしているのだろう。そんな考えを紛らわせようと弓塚の表情を一つ一つ大切に見ていく。

「……………………」
「……………………」

 夕陽を浴びて更に紅潮させる頬、少しばかり体を緊張させて固まっている肩、震える唇。

「…………………………………………」
「…………………………………………」

 そして、これから起こる事を期待して潤わせている綺麗な瞳。



 気がつけば、二人の唇の距離は息が触れ合うほど近くなっていた。

「…………………………………………弓塚」
「…………………………………………遠野、君」








「志~貴~! いきなり倒れたんだって!? 大丈夫!!?」

563 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/11/03(金) 14:30:48

 その闖入者は勢いよくドアを開け放ってそう叫んだ。

「っ!!!!!!!!」
「っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 ドアの音が聞こえてわずか0.3秒、かつてない反射神経で俺たち二人はさっきまでの位置に戻った。

「…………あれ、なんださっちんいたんだ」

 不機嫌そうにアルクェイドは髪をかき上げながらベッドの横まで歩いてきた。

「ざんね~ん、折角志貴の寝込みを襲おうと思ったのに~」
「っ、お前なぁ!」

 さっきの動揺がまだ残っているのか、もう少しで声が裏返りそうになる。
 目ざとくそれを感じたのかアルクェイドは、

「どうしたの志貴? ちょっと変じゃない?」
「いや、別に……何ともないよ」

 むっとした顔で責められて俺は思わず体ごと引いてしまう。
 俺の返事に満足しなかったのか今度は弓塚にまで詰問する。

「ねぇさっちん、何か志貴変じゃない? 頭でもぶつけたの?」
「さ、さぁ…………わたしもちょっとよく分かりません…………アハハ」
「……………………」

 俺と弓塚の顔を交互に見やって露骨に訝しげな顔をするアルクェイド。

「………………ま、いいわ。『こうなったのも』 稽古に遅れたあたしが悪いんだし。志貴、あたし先に行ってるから二人とも早く来なさいよ」

 珍しくこれ以上追及しなかったアルクェイドは踵を返してさっさと保健室から立ち去った。
 でも「こうなったのも」 という口振りからするにバレててもおかしくないような………………。

「……………………行ったね」
「……………………そう、だな」

 この会話を最後に、俺達はさっきのアレを思い返してしまって稽古に合流するまでの一時間一言も会話を交わせなかった。

 もちろん稽古の時間もうまくいくはずがなく、晶ちゃんに叱られたのは言うまでもない。


 そんな踏んだり蹴ったりの稽古が終わり、現在自室のベッドに体を投げ出している。
 さて、どうしよう


 戦闘要素注入:何が起こるか分からない。ワラキアの捜索に行く

 ラブラブ要素注入:弓塚を守らなければならない。弓塚の元へ

 シリアス要素注入:今日は疲れた。明日に備えよう(誰かさんの視点へ移行)

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最終更新:2006年11月03日 19:04