917 名前: 言峰士郎 ◆kceYkk4Fu6 [sage] 投稿日: 2006/11/14(火) 02:57:29
「神父の拳骨は死ぬほど痛い」
言峰士郎0-8「ブロークン・ブロークン・ファンタズム」
「よぉっ、慎二! 昨日殺されかけたことは許してやるからありがたく思え! そして俺ぁようやく理解したね、お前の気持ちを!」
「はぁ? どうしちゃったのさ。むしろ死に掛けたのはコッチだこの馬鹿。脳に蛆でも沸いた?散弾銃で吹き飛ばしてあげようか?」
「そしたら俺はチェーンソーでお前をバラバラにしてやるから安心しとけ。
妹ってのに浪漫を見ちゃいけないってェことが、良くわかったぜ、慎二!」
とたん、間桐さんチのワカメちゃん(通称)は俺の手をがっしりと握り締めた。
「わかってくれたか、言峰ェッ!」
「ああ、おうともさ、友よッ!
今まであんな良い妹がいるのに何を文句いってやがるこのボンクラその頭の海草引っこ抜いて養殖してやるとか思っててすまん!」
「はっはっは、そんな風に思われてるなんて欠片も知らなかったが許してやるさ、この黒焦げモヤシがッ!
だが何はともあれ同志ができたことはめでたい!」
「ああ、めでたい!乾杯しよう、この泡の出る麦茶で!そういやソーダと麦茶で子供ビールってあったな、昔」
「はっはっは、あんな糞不味い代物飲めるかよチェキストの豚めっ! 乾杯しつつ教師に見つかったら僕逃げるから4649!
やっぱ妹ってのは、もっとこう、清純派じゃないとな!」
「ちッ……この敗北主義者めっ! シュールストレミング喰って死んだ所を街灯に吊るして晒し者にしてやるから覚悟しとけ!
ああ、清純派でないとな! でもって、もっと兄を敬ってくれなきゃあッ!」
「そうそう、どいつもこいつも兄をワカメでも見るみたいにッ!
ところで言峰、近頃の記号化されたツンデレってどう思うよ!?」
「あ、ゴメン俺もお前のことワカメだと思ってる。
俺達が求めているのは『気が強くて好きな子の前で素直になれない』女の子だ! 断じてツンデレじゃあ、ないッ!」
「だよねー、だよねー、後で覚えてろよ。従順なように見せかけて裏で兄と祖父の毒殺計画練るようなデレツンなんていらねー」
「だよなー、だよなー、いや絶対に忘れる。普段から毒舌で人を苛めるのが趣味で人に苛められるのが好きな妹なんていらねー」
「なぁにやってるのよ、そこの馬鹿二人は?」
通りがかる遠坂。
二人して頭の上から下まで眺める。
清純派――まあ、分類するならば。
一応、きっと多分恐らく、自分より目上は敬うだろう。表面上だけかもしれないが。
記号化されたツンデレ――かもしれないが気が強くてどいてお兄ちゃんそいつ殺せない分は無い。多分。
デレツンじゃないし、苛めるのが趣味で苛められるのが好きなようでもない、が。
ぴたり、と二人の視線がその涙がちょちょぎれんばかりの小さな胸へと止まる。
「「ダウト」」
――――――レディファーストなんて糞くらえだ。
そう罵っても、昨晩おきた出来事は、もう変わらない。
過ぎた事だと水に流す事もできないのだ。忌々しいことに。
車田飛んでく間桐慎二を眺めながら、俺は教室の床で犬神家の一族しつつ溜息を吐いた。
――あ、コレって走馬灯かもしんねー。
918 名前: 言峰士郎 ◆kceYkk4Fu6 [sage] 投稿日: 2006/11/14(火) 03:00:03
――Interlude――
――Side:nameless corpse――
其の夜の争いは、奇妙(ウィアード)で怪奇(ウィアード)、不可思議(ウィアード)な代物であった。
そも、神代の英雄同士の激突など、早々お目にかかれるものでもなく、
其処に紛れ込んできた一般人が、主と共闘するに至って、黒衣の暗殺者は驚き、知らない内に笑みを浮かべていた。
無論、骨を砕き、肉を削いだ、髑髏の顔だ。
笑みと呼ぶにはあまりにも歪であり、暗殺者もそれを自覚してはいたが、だけれども抑えることはできなかった。
これだから戦争はわからない。それ故に闘争は堪らない。
「なにを笑っているんです?」
「おや、私が笑っていると理解るのか?」
横目で二人の姿を追いながら、迫る釘剣を短刀でいなす。
鋼と鋼の激突する澄んだ音。足りないのは火薬の臭い、血の匂い、兵士の怒号。
七組十四人で行われる戦争に、軍勢などというのは存在しない。
軍勢と軍勢が激突する鉄火場に生きた暗殺者には、それが少しばかり寂しくもある。
「それは、まあ。時折、溜息のようなものが聞こえましたから。笑い声であると気付いたのは今ですけれど」
「……いやまったく、迂闊であったというべきか、それとも気付いて貰えた事を喜ぶべきか」
弾き、突き、弾かれ、突かれる。
それを受け、逸らし、懐へ飛び込み、顎へと一閃。
鎖が滑る。それに捕われるよりも前に後ろへ飛び――その首筋を掠める釘剣。
だが暗殺者とて尋常な存在ではない。頬に引かれた紅の線、いつ斬られたのか女には見えなかった。
生と死を分けるのは、紙一重。一歩半。
しかれども、互いに眉一つ動かさない。その一歩半を無限に積み重ねて、互いに英雄となったのだ。
二人の生涯は、真っ当な英雄とはかけ離れたものだったが、戦場に君臨したという意味では、紛れも無く英雄である。
「まったく、刃を交えるのが趣味でなければ、食事にでも誘いたいところだが」
「少なくとも、今宵は無理なようですね」
女の膂力に対し、男は速さで立ち向かう。男の手数に対し、女は一撃をもってして迎え撃つ。
これでは百日かけても勝負は終わるまい。
故に。
勝敗を分けるのは、この場に飛び込んできた一人の少年。
彼のみだ。
――まず口を開いたのは少年だった。
「いよぉぅ、慎二! まだ生きてるか!?」
「なッ……その声――言峰かッ!なんでお前が、その女のほうにいるんだよッ?」
「応ともさ。皆が大好き言峰士郎ですよ。いやあ、なんつーか、アレだ。緊急避難でカルネアデスの板でヒカリゴケって感じ?
ああいや、最後のはわりとマジだから冗談で言うと怒られそうなんで撤回しとこう、うん」
「答えになってないぞ、言峰ッ! お前、監督役なのに、なんでそっちの女についてるんだって聞いてるんだ!」
「監督役つぅても、いきなりドンパチに巻き込まれて死ぬのは嫌だからなあ。とりあえず助けてもらった側についてみた次第。
つかアレだ。まだ戦争始まってないんだから闘うなっていう以前に、天下の公道で何やってるんだお前は。道路公団が怒るぞ」
「なに? それじゃあ、僕を止めようってわけ?」
「そーゆー事だな。まあ、アレだ。文句があるなら戦争に勝ってから言ってくれ」
少年の背中には冷や汗。
だけれど間桐慎二は気付けない。
「フン……邪魔しないでよね、言峰。勝つのは僕さッ!」
919 名前: 言峰士郎 ◆kceYkk4Fu6 [sage] 投稿日: 2006/11/14(火) 03:00:56
「いや、勝つのはお前じゃないよ」
「……なんだって?」
「ガラガラドン(Billy goats)さ、人食い鬼(Troll)!!」
次の瞬間、慎二の身体に真紅の布が巻きついた。
それを握るのは少女。夜闇に紛れて近付いた、暗殺者の主。
少年が気を引いている間に、気配を消し、音も立てずに静かに近付いた、彼女であった。
「レディファーストと言っておいて女性にだけ歩かせるなんて。本当、男としてどうなのかしらね?」
「アーアー聞こえなーいー」
――それで、ピリオドだった。
暗殺者と騎兵は、小さく肩をすくめて剣を引く。
停戦の理由なんて、いつだってこんな物だ。
少なくとも、剣と英雄とが君臨し、戦場に夢と幻想があった時代は。
「……では、またいずれ、と言ったところかな?」
「そうですね。互いに違う相手に殺されなければ、ですけれど」
それを見て、主が少年を解放した。騎兵は無造作に歩み寄り、彼を抱えて跳躍す。
恨み言を言っていたのか罵っていたのかは定かではなかったが、甲高い叫びも夜空に消えて。
これで今夜の闘争は閉幕と相成った。
――side:broken fantasm――
さて、その後俺は――
1.彼女が妹になった経緯を思い出す
2.遠坂凛に復讐を
3.イリヤ先輩が気になるワン!
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最終更新:2006年11月15日 03:06