961 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/11/16(木) 22:23:47


 蒔寺と三枝に、氷室の無事を知らせないと。
 昨日氷室を探す時も、あの二人には随分助けられたし。
 そう思った俺は、3年C組の扉を素通りして、A組の引き戸を開けた。
 中は、ホームルームが近いからか、生徒の人数も多い。
 自然と視線が俺に集まるのがわかる。

「あ、衛宮くん!」

 そんな中、昨日と同じように呼びかけてくれる声があった。
 昨日と同じ声。
 耳にしただけで、聞くものの心を和らげそうな声の持ち主を、俺は一人しか知らない。

「三枝、蒔寺。それに……遠坂?」

 見ると、三枝は遠坂の席の隣に立っていた。
 どうやら、朝から何か話をしていたらしい。
 対面では、もう一人の話相手である蒔寺が、机に腰掛けた恰好でこちらを睨みつけている。

「あら、おはよう衛宮くん。
 でも、衛宮くんの教室はここの二つ隣だったはずだけど?」

 にこり、と余所行きの笑顔を浮かべてくる遠坂。
 朝に引き続き、他人の前では見事なほどの猫被りっぷりだ。
 こちらもそれにあわせて、少々言葉を選ぶことにする。

「ああ、おはよう。
 それと、教室は間違えたわけじゃないぞ。
 ちょっと、三枝と蒔寺にな」

「あら、なにか秘密のお話?
 一体どんな御用かしらね」

「御用? はっ、用事なら衛宮に無くてもこっちにあるっての」

 俺と遠坂の会話に、割って入った女が一人。蒔寺だ。

「ようやく来たな、衛宮。
 今日も氷室が来てないんだが、こりゃどーいうことか説明してもらおうか?」

「ま、蒔ちゃん、そんないきなり……それに、遠坂さんが……」

「構いません、三枝さん。
 今のお話も興味深かったけれど、こちらのお話もなにやら訳ありのようですし。
 なんでも衛宮くんは、昨日お休みされた氷室さんを探しに行かれたとか」

 遠坂が代わりに答える。
 自分は昨日の家庭裁判で全部知っているくせに……学校でも俺を陥れる気か、あかいあくまめ。

「そう。衛宮、アンタ昨日はあれっきり、学校に戻ってないだろう?
 昨日何があったのか、きりきり白状してもらおうか」

 返答次第では昨日のツケを利子つけて返してやるぞ、とばかりに睨む蒔寺。
 本当に、氷室のことになるとこんなに真剣な目になれるんだな、こいつ。
 そしてもちろん、俺はそれを茶化すようなつもりはない。

「ああ、二人にはちゃんと説明しようと思ってここに来たんだ。
 昨日、あの後すぐに、氷室を見つけられた」

「本当ですか!? よかった……」

 ほっ、と目に見えて安堵する三枝。
 だが、それとは対照的に、蒔寺の顔は険しいままだ。

「良かないよ。
 だったらなんで今日、氷室が顔出さないのさ。
 一体その後、何をやってたっていうんだい?」

「何を、って言われてもな。
 ただ、氷室と二人で色んな所を歩き回ってただけで……」

 俺がなんとか当たり障りのない言葉を選んで説明していると、横から悪魔の横槍が。

「それって、つまり、デートってことよね」

962 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/11/16(木) 22:24:37


「え、え、えええっ!?
 で、デートですか!?」

 三枝が驚きの声を上げる。
 デート。
 俺から言い出したことだったが、今にしてみると、そして他人の口から改めていわれて見るとこれ以上ないほどにこっ恥ずかしい。

「う……ん、まあ、そうなるか、な?」

「な、なななななんだとぉー!?
 あたしらが他愛もない授業を受けている間に、二人で仲良くサボタージュデートだとう!?
 ぐぐぐ、信じられねー、神は昼寝でもしていたのかー!!」

 三枝を上回るほどの音量で驚き吼える蒔寺。
 でも他愛もないの使い方、明らかに間違ってるぞ。

「へえ。まさかそこまで氷室さんと仲良くなっているとは。
 正直驚いたわ」

「……何が言いたいんだ、遠坂」

「いえ、別に?
 それより、そのデートの結果はどうだったのかしら?」

「それは……俺からはノーコメント、だな」

 氷室の答え……昨日のデートの結果、氷室が俺との関係について、どういう判断を下したのか。
 その答えを、俺はまだ聞いていない。
 聞くタイミングがなかった、といえば嘘になる。
 朝、食事の前、あるいは食事のあとの話し合いの時。
 話を切り出すチャンスは、いくらでもあった。
 それを尋ねなかったのは、単純に聞くのが恐かったのもあるし、氷室が言わないつもりならそれでも構わない、と考えていたせいでもある。

 ちなみに……俺も氷室の家に付いていったことや、家に帰った後でまたひと騒動あって、その後ウチに泊まらせたことは、言うまでもなくトップシークレットである。
 遠坂はともかく、三枝と蒔寺にまでばれることは防ぎたい。

「待てよ、それじゃ氷室が今日も来てないことの理由になってないじゃんか。
 衛宮がなんか余計なことを言ったんじゃないのか?」

「いや、そんなことはないぞ。
 氷室はどうも、昨日ドタバタしたのが堪えたらしくて。
 大事を取って、今日も一日休むつもりだってさ」

 今頃はセイバーに送られて家路についているところだろうか。

「なに、衛宮アンタ、嫌がる氷室を無理矢理連れまわしたのか?」

「いや、そうじゃないけど……結果的にはそうなるかな。すまん」

 俺が答えると、蒔寺は居心地が悪そうに鼻を鳴らした。

「そんな正直に謝られてもね。それに、謝る相手が違うだろ」

「ん、まあ確かにそうだけど。
 でも、蒔寺には昨日のツケの分もあるしさ、このことに関しては謝っておこうと思って」

「……つくづく律儀人間だな、お前。
 こちとらツケのことなんて忘れてたっつーの」

 それこそ嘘だ。
 さっきはツケを清算する気満々だったくせに。

「最後に聞くけど、氷室は本当に大丈夫なんだな?」

「……ああ。もう問題は解決した」

 今後、もしアリスゲームが行なわれたら、雛苺が狙われることはあっても、既に契約を破棄した氷室が狙われるとは考え難い。
 氷室と雛苺を引き離したのは、氷室の安全のためにもなったと言えるだろう。

「ならいいさ。ツケはチャラにしてやるよ」

「そっか、助かる」

 ……良かった、ひとまずこれで氷室の件についてはひと段落ついた。
 俺はそのまま教室から出て行こうとして……ふと、ほんの少しだけ気になっていたことを尋ねてみた。

「ところで、さっきまで何の話をしていたんだ?」

「ん? いや、大したことじゃないんだけどさ……」


α:「衛宮、生徒会長がカナリヤ飼ってたって知ってた?」
β:「さっき、正義《レッド》の兄ちゃんを見かけたんだけど」
γ:「昨日、未確認飛行物体を見たんだ、って話をな」

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最終更新:2006年11月17日 04:22