302 名前: 言峰士郎 ◆kceYkk4Fu6 [sage] 投稿日: 2006/11/28(火) 01:52:20
言峰士郎1-4『冬の夜』
――side:nameless corpse――
――この街の冬は早く訪れると聞いた。
だからだろう。
夜気が、身を切り裂くような冷たさを孕んでいるのは。
なるほど、確かに――『冬木』は寒いと、そう思えた。
彼の生まれ故郷ほどでは無いにせよ、だ。
果てしない荒野。不毛の地。
昼は太陽に責め立てられ、夜は寒さに脅かされる。
あれからどれほどの年月が過ぎたかは、亡霊である身には想像もつかない。
だが、故郷は変化したのだろうか。どうなったのだろうか。
この最果ての地は、伝え聞いた噂とは随分と景色が違っていた。
召還された際に得た知識はある。だが、実感としては――恐らく、何も無い。
……まあ、いつもの事だ。そう暗殺者――ハサンと呼ばれる亡霊は嘆息した。
何も変わらない。いつも知識だけ。知識と短刀――時にはそれすらも与えられなかった。
だが、それでも戦ってきたのだ。相手や、時代や、場所が変わろうと、亡霊は変化しない。変化できない。
それで良い。それこそが暗殺者の在り方だ。
それに疑問を抱いたのは――……。
「……何を考えているのかしら?」
「――特には」
……道具(アサシン)は何も考えない。主に、そう命じられない限りは。
彼の腰掛けていた屋根。そのすぐ傍の窓を開けて、主が顔を出した。
「そう。……それで、何か見つけた?
あの人はまだ全部召還されていないと言っていましたけれど、弁当を間違えてしまう程の間抜けだもの。
兄さんのことだから、何か見落としているかもしれないとは思わない?」
「特には」
再び、否定。
「やはり、昼間から動くほどの考え無しはいないのでしょう。
公道で行き成りドンパチをする程度のはいるとしても、ね。
どうしましょうか。少々、調べに出ても良いのだけれど……」
「既に夜。動き出すのならば、そろそろかと」
「でも、あの人は帰ってきていない」
主の義兄――士郎、と言ったか――が教会を後にしてから、約十時間。
亡霊には今代の学び舎がどのような代物かは知らないが、其処まで遅くはならないだろうとは予測できた。
子供は貴重な労働力である。それを拘束する時間は、さほど長くない方が好ましい……筈だ。
駄賃目当てに働いているらしい少年少女の姿を、昨日までの時点でも確認できたことからも明白だ。
そして彼――主の義兄は、聖杯戦争の監督役なのだ。なれば、連絡の来る可能性の高い教会を長く空ける筈もない。
――だが、既に日は沈み、空には星。魔術師達の刻は、もう始まっているというのに、戻ってはこない。
「……何かあった、と?」
「まさか」
修道女は、微笑と共に問いを一蹴した。
当然だ。暗殺者にとて理解できる。
監督役に手を出すのは、よほどの馬鹿か、大馬鹿か、血迷った者ぐらいだろう。
もしくは彼が監督役である事を知らないか、だが。
「そして学生であるならば、多少遅れることもあるでしょうしね。ええ、普通でしょう。当然のことでしょう。
きっと昨日出会ったばかりの義妹のことなぞ忘れて女の尻でも追いかけているに違いありません。
汝、姦淫するなかれという言葉をどこかに置いて来てしまったのでしょうね、あの人は。
まったく、やはり駄犬は一度折檻しないと駄目かもしれません。今夜にでもしましょう。明日もしましょう。当然、明後日も」
「………」
道具は何も考えない。主に、そう命じられない限りは。
考えてはいけないのだ。何故そんなに嬉しそうなのか、などとは。
「……ではアサシン、行きましょう。あの人には何も起こってはいないと思いますが。
それはそれとして他のマスターやサーヴァントを探しても損にはなりませんから。
ええ、勿論、あの人には何も起こっていないと思いますけれども。
とりあえずは学校から廻りましょうか。
遠坂やマキリ――いえ間桐の方々も、通っておられるようですし」
303 名前: 言峰士郎 ◆kceYkk4Fu6 [sage] 投稿日: 2006/11/28(火) 01:54:43
――この街の冬は早く訪れると聞いた。
だからだろう。
夜気が、身を切り裂くような冷たさを孕んでいるのは。
なるほど、確かに――『冬木』は寒いと、そう思えた。
暴風避けの呪いを主にかけて抱えると、己はそのまま跳躍する。
風を孕んだ外套を翻し、暗殺者は夜の町並みを駆けて行く。
家の屋根から屋根へ。飛ぶように――否、まさに飛んで、駆ける。
暗殺者の気配遮断能力はずば抜けている。
それは与えられた役目によるものであり、
そして彼が研鑽を重ねてきた年月の賜物でもある。
「学び舎は此方の方か?」
着地。
「ええ。間違いは無い、でしょうね。この速さでは地形確認なんてできないですけれど」
跳躍。
「その分、方角さえ間違えなければ、一直線ですから」
着地。
「ああ、それは良かった」
跳躍。
「修道女殿。英霊だ。
……ああも派手だと見つけてくれと言っているようなものだな」
「……え?」
―――――ジャッジメント・タイム
A.「赤い外套で、一人だけ屋上に立っていればな」
B.「何しろ目立つ。赤と青の組み合わせなどと言うのは」
C.「なにせほら、運動場で剣戟なぞやらかしている」
投票結果
最終更新:2006年11月28日 18:24