443 名前: 言峰士郎 ◆kceYkk4Fu6 [sage] 投稿日: 2006/12/02(土) 00:10:12


B.「何しろ目立つ。赤と青の組み合わせなどと言うのは」
言峰士郎1-5『始まりの始まり』
――side:broken fantasm――

「やーれやれ、やーっと終わったか」

「ゴメンね、つき合わせちゃって。
 大変だったでしょ?」

「……空きっ腹には本当に大変だったッス」

 大げさに溜息を吐く俺を、けらけらと笑っている先輩。
 結局、先輩の手伝いとやらは、予想外に時間がかかってしまった。
 その、何だ。うん。

「修理頼まれてたストーブが十個もあるとは知らなんだ」

「あ、あははははー……………ゴメンなさい」

 美術室以外にも、保健室、宿直室、職員室、そして教室が3つ、ついでに倉庫で埃被ってたダルマストーブ三つ。
 やっぱりイリヤ先輩は火照った身体を慰めるべく色んな人の頼みごとを聞いていたのでした、まる。
 ……いや、俺は運ぶだけだったから、そんなでも無いんだが、うん。

「先輩『折角だから俺がこの赤いストーブを修理するぜ!』ってノリは止めてくれ。
 いつか死ぬ。俺が死ぬ。むしろ餓死るんで」

「あー……今度、焼ビーフンおごったげるから。そんなに拗ねないでよー」

「拗ねちゃあいないけども……」

 ……こんな人が一人くらいいても良いんじゃないだろうか、とは思う。
 イリヤ先輩がいて世の中悪くなる事は、まあ、無いだろうし。
 毒にも薬にもならん間桐慎二くんやら言峰士郎くんやらよりは、よっぽど良い。
 ん? となると慎二と俺は同類項って事か? 同程度?
 うわ、哀しいなあ、おい。

「……つか、遅くなっちまったなあ……」

 窓の外はすっかり夜。
 まあ、時間的には夕方なのだが。
 そうは言っても、暗闇というのは恐ろしい。
 カゲに何が潜んでいるかわからないからだ。

 最も、古代の人々が『何か』を動物や怪物と想像したのに対し。
 俺達は『何か』が犯罪者――つまり人間であると考えてしまう辺り、もう駄目なのかもしれない。
 まあ、同族同士で殺しあわない生き物なんざ存在しねえ、ってのも事実ではあるんだが。

「どうするよ、先輩は。送って行こうか?」

「あ……ありがとう。
 ――でも、良いかな。士郎の家と方向違うし、まだ学校に用事があるし」

「? まァだ何か仕事引き受けてたのか、先輩は?」

「うん。弓道場の、掃除をね、頼まれてて。
 だから士郎は先に帰ってくれない? 待たせちゃうと悪いし――……」

「あ――……」

 頭をぼりぼりと掻く。
 ったく、この人がどんな事してようが、俺にゃあ関係ないってのに。
 実際そうだろう?
 衛宮イリヤは俺にとって只の先輩であり、言峰士郎は彼女にとって只の後輩だ。
 どこでどうなろうが知ったこっちゃない。お互いに。
 ――ああいや、彼女はきっと、俺を助けようとするんだろうな。
 俺だから、ではなく――誰であっても、だ。
 やれやれ。
 なら、仕方が無いか。

「じゃあ俺も学校に用事を思いついた。
 一時間くらいで終わるだろ、先輩の方は?
 んなら、それぐらいに校庭で合流しよう」

「え、でも――……」

「ちなみに。
 俺は先輩が来るまで待ってるんで。
 来なかったら明日の朝まで待ってるんでよろしく」

 ずるいよぅと頬を膨らませる彼女に笑いながら手を振って、
 俺は『用事』を済ませる為に校舎の中を歩き出した。

444 名前: 言峰士郎 ◆kceYkk4Fu6 [sage] 投稿日: 2006/12/02(土) 00:11:52

「……まったく、何処のダボだ、学校に結界張るなんて駄目駄目なことしてくれたのは」

 溜息交じりに廊下を行く。
 まあ、アレだ。ぶっちゃけ放っておいても良かったんだが。
 調度良い機会であるし、監督役として、神秘は隠匿せにゃなるまい。
 こんな所で堂々と大虐殺なんぞやらかしたら不味いからなあ。
 魔術師ってのは深く静かに潜行するもんだろう。

「それを……目立ちたがり屋なマスターでもいるのかねえ?」

 ――あー、慎二とかやらかしそうだなあ。
 昨日負けてイラついてたみたいだし。

 『ついカッとなってやった。反省はしていない。戦ったら負けかなと思ってる』
「駄目じゃん」

 一人ボケ一人ツッコミ。
 うーん、俺ってロンリー。
 などと言っている場合ではなく。

「……基点は屋上――かねえ、やっぱり?」

 階段をスタコラサッサと上り、金属製の扉を押し開ける。
 吹き荒ぶ風。夜になると余計に寒い。肌を切り裂くような、ってのはこんな感じか。
 のんびりと屋上の真ん中まで歩いていき、ポケットを探る。
 いつもの紙巻。そういや買いに行ってないから、もう中身が乏しいなあ。
 やれやれと溜息を吐きながら一本咥え、火を灯す。

「まあ、ぶっちゃけ『ここに在る』のを確認する以上のこたァできないんだがね」

 さして魔術が得意なわけでもなく。
 それ故に高位の魔術師やらサーヴァントやらが張った結界をどうこうできるわけもない。
 ようは暇潰し。時間つぶし。しないよりマシ。そんなところだ。
 この聖杯戦争とかいうシステムは、別に言峰士郎がいなくたって廻っていく。
 そいつは地球も同じ。俺個人が生きようが死のうがどーなろうが関係ない。
 つーかアレだ。極端に言えば、人類が絶滅したって明日は来る。そんなもんだ。
 ケケ、と笑いながらフェンスに歩み寄る。
 夜の冬木。昼間とはだいぶ風景も変わる。雰囲気だって変わる。
 ……まあ、いくら外灯があるからと言ったって、夜の校舎が不気味になるのは当然か。
 トイレの花子さん……だっけか? 男子にとって『女子トイレ』ってのは『よくわからない場所』だからな。
 怪異がいても不思議ではない――と思考するのも極々当然なのかもしれない。

「――って、あン?」

 次の瞬間。
 俺は思わず顔を引き締めた。
 音だ。聞きなれない、耳慣れない音。
 金属と金属がぶつかりあう音。
 剣戟か、こいつは?

「まさか――」

 ……目を凝らす。ジャックポット、校庭だ。

 青色の何者かが――黒い何かと剣を合わせている。
 視界の隅には、赤い外套も見える。
 ……これでハイランダーの戦いとかだったら、俺は全財産を払っても良いね。

「……聖杯戦争」

 搾り出すようにして、呟く。
 やれやれ、なんてこったい。こんな状況で。

――――――ジャッジメント・タイム

 A.様子を見る
 B.現場へ行く

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最終更新:2006年12月08日 07:23