489 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/12/04(月) 08:20:33
――Interlude side 1st Doll
「……なによぉなによぉ、もう」
頭の中がムシャクシャしてる。
中庭を飛び越えて、土蔵へ……その天窓から、中に入り込む。
元々、天窓は閉め切ってたみたいだけど、水銀燈が出入りするから、と士郎に言って開けさせた。
ああ、なるほど水銀燈じゃ扉は開けられないもんな、と頷かれたのはすこぉし癪だったけど。
「ふぅ」
適当なジャンク……士郎が直すと言っていたもの……の上に座る。
土蔵の中は外と打って変わってとっても静か。
少しだけ外から物音が聞こえてくるけど、あんまり気にならない。
……あの氷室とかいう女は、もう帰ったみたい。
なぜか雛苺はここに預けて行ったみたいだけど……そんなにローザミスティカを奪って欲しいのかしら?
今は気分が乗らないから、放っておいてるけどぉ。
そう。
私は今、とっても気分がよくなかった。
なんでかって言えば、それは……。
「なぁに、あの女。……士郎にベタベタしすぎじゃなぁい?」
先ほど帰った、氷室という名の人間の女。
雛苺のミーディアム。でも雛苺が契約を破棄しちゃったから、今はもうただの人間。
の、はずなのに。
「なのになぜ、まだ士郎の側にいるのよ?」
士郎も士郎よ、この水銀燈の下僕のくせに、他の女にうつつを抜かしているだなんて。
そのせいで勝手に危ないことに首を突っ込んでるなんて、本当にお馬鹿さん。
大体あんな女のどこがいいのよ。
あんな女、私に比べれば……私のほうがずっと……。
「……ばっ、馬鹿馬鹿しい。そんなこと水銀燈には関係ないったら、もう!」
土蔵の床に、少し乱暴に降り立った。
中央には、大きな姿見が置かれてる。
私が士郎に言って用意させたもの。
「…………私は」
何気なく近づいて、正面に立つ。そこに映るのは水銀燈の姿。
「私はアリスゲームを制してアリスになる。
それだけが……」
それだけが私の望みだったはず。
気まぐれに、そっと鏡面に指を触れてみる。
鏡の中の私も、手を伸ばして――私と私の指が触れ合う。
「――――!」
波打つ鏡面、煌めく反射。
直感で分かった。何かが、この先に……nのフィールドにいる。
何が? 決まってる。
「他の薔薇乙女《ローゼンメイデン》……そこに居るのね」
どうしよう。
鏡に手を当てたまま考える。
今はミーディアムが、士郎がいない。
他のドールと出会ったら、一人で戦わなくちゃ……。
「――それがどうしたって言うのよ」
そう、私は誇り高き薔薇乙女《ローゼンメイデン》第一ドール。
一人で戦うことに、怖れなんかない。
ミーディアム? そんなもの、元々必要ない。
身を躍らせる。
私は、なにかを振切るように、nのフィールドへ滑り込んだ。
490 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/12/04(月) 08:21:37
扉、扉、扉。
それ以外は全て闇。
nのフィールドは全ての空間と繋がっている。
遠くに、近くに、彼方に、此方に……そして、未来へ、過去へ。
でも過去や未来への行き方は知らない。
あんまり興味もないから。
扉だらけの空間を、飛んでいくようなイメージで進む。
他のドールたちは、人間の手を借りなければ、この場所に留まることすら出来ないみたい。
けど、水銀燈も同じだと思ったら大間違い。
私はミーディアムと契約していなくても、nのフィールドを自由に行き来できるもの。
このことは士郎も知らないだろうけど……。
「虚ろは真、願いは満たず。歩む路を見失いましたかな?」
……誰?
思わず動きを止めた直後に、今の声に聞き覚えがあることに気づいた。
今の声は……そう。
「あぁ、そういえば貴方も居たのね……忘れてたわ」
この場所に、薔薇乙女《ローゼンメイデン》以外のものは居ない。
ただ、貴方だけは例外だったわね。
「ラプラスの魔。この時間で会うのは初めてね」
「ご機嫌麗しゅう、薔薇乙女《ローゼンメイデン》第一ドール。
このような世界の穴の中へ、何を求め、何をお探しに?」
タキシードを着た白いウサギ。
ラプラスの魔、と呼ばれるそれは、恭しく一礼してくる。
私はこの白ウサギがあまり好きじゃない。
慇懃無礼で諧謔趣味。無駄な言い回しで他人を惑わす……胡散臭いったらない。
「何を探しに、ですって? 少なくとも貴方じゃないのは確かね。
そして、私は道に迷ってなんかいないわ」
「ほう。ですが、手を引くものがいない子を、なんと呼ぶかご存知ですか?
……そう、迷子。
一人彷徨う貴女の姿は、失礼ながらそれによく似て――」
「ラプラスの魔。その自慢の耳を裂かれたくなかったら、それ以上喋らないことね」
私はラプラスの言葉を、最後まで言わせなかった。
強い言葉と睨む瞳で遮ると、ラプラスの魔はあっさりと引き下がった。
「これは失言を。どうやら酔いに任せて口を滑らせたようです」
「……何の冗談? 貴方が酔っ払うなんてありえないでしょう」
「いえいえ。杯の残り香は、香しく芳醇、嗅ぐだけで酩酊。
流石の私も、少々当てられまして……」
杯? 残り香?
……何を言ってるのかさっぱりわからないけど、ラプラスの魔が意味不明なことを言うのはいつものこと。
……そうだ。ラプラスが再びろくでもないことを口走る前に。
「……丁度いいわ。答えなさぁい、ラプラスの魔――」
α:「この街がアリスゲームの舞台に選ばれた、その意味を」
β:「あの子は……真紅はどこに隠れているの?」
γ:「私が感じた気配は貴方のものじゃないわ。あれは誰のもの?」
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最終更新:2006年12月05日 22:21