599 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/12/10(日) 23:37:40


「この街がアリスゲームの舞台に選ばれた、その意味を」

 ラプラスの魔。
 人間たちの言葉を借りれば、それは全ての動きを計算できる悪魔だとか。
 一時間後のことを一分で知り、一分後のことを一秒で知り、一秒後のことを既に知ってるってことらしい。
 なぜそんなウサギがnのフィールドに居ついてるのかわからないけれど、貴方のことだし、この程度のこと、知らないことはないはずでしょう?

「はて、意味とはまたおかしなことを。
 運命に意味などなく、必然に理由などありません。
 全てのものに意味を与えられるならば、これほど楽なことはありますまいに」

 しかし、ラプラスの魔は大げさに肩をすくめてみせただけ。
 いちいち芝居がかった仕草。
 やっぱり水銀燈はこのウサギ、嫌い。

「とぼけるつもりぃ?
 士郎が時々喋ってたのを、私はちゃんと聞いてるのよ。
 何かがあるんでしょう、この街に」

「……なるほど、確かにこの街は、かの戦いの舞台でありました。
 ですが、それはそれ、と申します。
 此度のアリスゲームとは、関係ないのでは?」

「勘違いしないで、関係あるかないかは私が決めるの。
 ……はっきり言うわ。『聖杯戦争』ってなぁに?」

 私がその言葉を口にした途端、ラプラスの魔はくるり、と振り返って、私に背中を見せた。
 これもなにかのポーズなのかしら……どういう意味があるのかさっぱりだけど。

「聖杯戦争。
 根源に至る扉を掻き毟る不毛の儀式。
 それは呪い師たちの百年祭、
 それは七人と七騎の殺し合い、
 それは七百二十六杯目の美酒、
 それは生れてくる前に死んでいく運命」

「……それで分かりやすく言ってるつもり?」

 正直、ラプラスの魔の言ってる事がほとんどわからない。
 そんなにその耳を引きちぎって欲しいのかしら、このウサギ。

「いやいや、もっと単純なこと。
 私の口から語る事が出来る内容は、驚くほどに少ない故に、このような言い方でしか表現する術を持たぬのです」

 それになにより、と言って、ラプラスの魔は頭だけこちらに向き直った。

「なにより、美しき薔薇乙女《ローゼンメイデン》よ。
 貴女は尋ねるべき相手を間違えている……致命的なまでに」

「……なんですって?」

「舞台について知りたいのならば、舞台の主役にお尋ねあれ。
 彼が貴女を目覚めさせたのもまた、無意味な運命のきまぐれ故に」

 ぱちん、とラプラスの魔が手を打つと、その足元に楕円の穴が出現した。
 途端にラプラスの魔の体は、まるで重さを思い出したかのように穴の中めがけて落下していく。

「ちょっと……!」

「舞台の袖から堕ちた役者は、薄闇の中で舞台を見上げるのみ。
 お気をつけください。
 見えざる穴は、どこにでも隠れている……」

 その言葉を最後に、ラプラスの魔は私の前から消え去った。
 待ちなさい……って言っても無駄ね。
 ラプラスの魔が一旦隠れてしまえば、それは薔薇乙女《ローゼンメイデン》ですら探すことができない。

「舞台の、主役……?」

 その言葉に、咄嗟に私が思い浮かべたのは――nのフィールドに入る直前、不満を募らせていた人間の顔だった。


――Interlude out.


α:柳洞寺に着くと、俺はさっそく葛木夫妻の部屋に案内された。
β:柳洞寺に着くと、俺は境内で零観さんと出会った。
γ:柳洞寺に着くと、ふもとにコペンハーゲンのトラックが停まっていた。

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最終更新:2006年12月11日 08:24