678 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/12/15(金) 11:48:38
その前に喉が渇いたな。ちょっとキッチンに行って水でも飲んでこよう。
俺は誰かさんのせいで昂ぶった気持ちを落ち着かせる意味も込みで部屋を出た。
「…………」
たとえ我が家であろうと、さすがに真夜中となると学校のように長い廊下を一人で歩くのは心寂しい。
そんな事をあまり考えないように俺はひたひたと台所までの道を一直線に突き進んだ。
――――そういえば
ふと思った事が疑問系で頭に浮かぶ。
そういえば何故保健室が弓塚がいたのだろう。不思議でも何でもないと思えばそうなのだが、何か引っかかる。
まず弓塚でなくシエル先輩や秋葉でも何ら不思議ではない。それが弓塚であっても他の誰かが付き添っていてもおかしくないはずだ。
それに、今日俺が弓塚を屋敷に招いたのもどこか自分らしくないように感じる。
さっき弓塚を見つけた時も妙にちぐはぐな感じがしていたからだろうか、とにかくいまいち気持ちが納得しない。
何もかもが弓塚と接点がありすぎる。これは俺の思い違いなのだろうか。
現にほら、
「あ…………遠野君」
「……弓塚」
俺以外は皆もう寝ていると思っていたのになぜか弓塚が俺の目の前にいる。
「……ど、どうしたんだ弓塚? こんな時間に」
「あ、ちょっと眠れなくて……トイレ探してて迷ってたの」
暗がりでばつが悪そうに笑う弓塚。寝る前だからいつもの髪型を解いて髪を下ろしている。
俺はその姿に見入りそうになるのを誤魔化すように口を開いた。
「そうなんだ。トイレならそこの角を……」
「あ、大丈夫。もう行ってきた帰りだから。おかげさまでもうお屋敷の間取りは完璧だよ」
「そ、そっか……」
「うん…………」
「…………」
「…………それじゃあ、おやすみなさい」
静かに髪を揺らしながら弓塚は軽く頭を下げて俺の横を通り過ぎた。
「あぁ、おやすみ…………」
俺は聞こえたかどうかも分からないくらいの声で最後の挨拶を交わした。
手を伸ばせば届く距離。今まで以上に近くなった関係。
その何もかもが、今の俺には………………。
「…………」
俺はその先を思考するのをやめて踵を返して部屋へと向かい、床に就いた。
幸いにして、夢は見ることはなかった。
interlude:その夜、弓塚の部屋では……
madrigal:その夜、とある公園では……
tranquillo :そうして、次の日の朝を迎えた。
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最終更新:2006年12月16日 01:16