804 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/12/26(火) 13:35:28


~interlude~


「はぁ……」

 わたしはカーテンを開け放っている部屋で両膝を抱えるようにして月を見上げていた。
 半月、それよりも僅かに膨らんだ月が私を照らす。雲間を縫うように覗かせている月光が私を祝福しているようだった。
 これからあの月はどうなるんだろう。満ちるのか、欠けるのか。

 わたしの不安や期待を具現化するかのように満ちていくのか。

 わたしの希望や絶望をあっけなく壊していくように欠けていくのか。


 もし、貴方がわたしを好きでいてくれるというのなら
 わたしはこうやって月を見上げることもないのだろう
 もし、貴方がわたしといつまでも一緒にいれるというのなら
 本当に、
 本当にわたしはいつまでも貴方を好きでいられるのに……


「…………遠野君」

 怖い。怖くて胸が押し潰されそう。私は強く膝を抱く。
 下ろした髪が私の顔を覆い隠すように睫毛にかかった。けれどもわたしは気にせずに動かなかった。

 今のささやかな幸せが崩れていくのが怖い。
 けど、さらに大きくなって崩れる幸せの方がもっと怖い。

 貴方の腕で、わたしを包み込んでほしい。
 貴方の声で、わたしを安心させてほしい。
 貴方の目で、わたしを見つめてほしい。
 貴方の全てで、わたしを愛してほしい。

 貴方の血で、わたしの渇きを癒して…………

「っ! 駄目っ!」

 私は理性を働かせ、ついでに頭を振って本能に近い思考を中断させた。

「だめ…………それだけは駄目」

 自分に言い聞かせる。もし「それ」を実行してしまったらきっと後悔してしまう。

「どうしよう……」

 不意に涙がこぼれる。誰かが見ているわけじゃないけれど、膝に顔を埋めて嗚咽を押し殺す。

「……………………助けて」

 呼吸をするのさえ苦しいのに、わたしは誰かの助けを求めた。
 誰も聞くことは叶わないのに、わたしは誰かの助けを求めていた。その人は、




「……………………………………遠野君」

 両親でもなく、
 親友でもなく、

 ましてや神様でもなく、わたしのピンチを救ってくれる男の子だった。




 そうして、わたしは泣き疲れて寝るまで彼の名前を呼び続けた。






~interlude out~

805 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/12/26(火) 13:36:19

「おっはよ~志貴~!」

 放課後の教室、ドアの開く音と同時にあいつらしい底抜けに元気な声が響く。
今日は雨が降りそうなほど雲が厚く、どんよりとしていた。

「おぅアルクェイド……って言っても、もう夕方なんだがな」
「もう志貴ぃ、いちいち細かいんだからぁ~」

 アルクェイドは会うや否やコロコロと表情を変えていく。俺はその様を苦笑いしながら見ていた。と、

「そういえば志貴、昨日どうしてあんな遅くにココに向かってたの?」
「……え?」

 身に覚えのない事を聞かれて俺は答えることもできずそんな声を上げた。

「日にちが変わるくらいだったかな、繁華街でたまたま志貴を見かけて声をかけたんだけど気づかなかったみたいで。あのまま真っ直ぐ行けば家じゃなくてココに着くのに、と思って」
「…………」

 俺は眉をひそめた。
 確かに昨日は弓塚を探しに繁華街に行ったが、決して学校に向かおうとはしなかった。第一、アルクェイドに声をかけられれば反応するだろう。

「ねぇ……ちょっと志貴、聞いてる?」
「え、あ、あぁ。悪い、ちょっと考え事してた」

 下手な嘘をついてその場を誤魔化す。

「昨夜も今みたいに考え事したくてさ。ブラブラしてたんだけど特にどこに向かうって訳でもなかったんだ。
 だからお前に声かけられても気づかなかったのは多分ぼーっとしてたんじゃないかな」
「…………ふ~ん。そっか」

 どこか腑に落ちないのか、目を細めて俺を見る。ドアの開く音がしたのをいい事に俺は気づかないふりをしてそちらを向いた。

「あ、先輩。どうも」
「あら遠野君、今日は早いですね」

 ざっと教室を見回してシエル先輩はそう言った。今いるのは今来た先輩を含めて俺にアルクェイド、それに翡翠に琥珀さん。
 有彦は今日は用事で来れないような事を昼休みに言っていた。俺からすればあいつが今まで皆勤で出席していたのが驚きだ。まぁ俺も似たようなもんだが。
 秋葉はまだ晶ちゃんを迎えに行っている最中のようだ。もうそろそろ着く頃だとは思うが車がどこかに引っかかっているのだろう。
 シオンは何も分からない。他の人に聞いてみたが誰も知らないらしい。そして……

「弓塚さんも来ていませんね。彼女が集合に遅れるなんて珍しいですね」
「……えぇ、そうですね」

 弓塚の名を出されて心臓が一瞬跳ね上がる。俺は動揺を表に出さないように努力しながら返事をした。

「瀬尾さんがまだ来ていませんが時間です。先に始めていましょう」

 晶ちゃんの代わりにシエル先輩が皆に指示を与えた。俺もそれに従ったが、心中ではまったく別の事を考えていた。

 昨日アルクェイドが見たっていう俺と瓜二つの人物。それにシオンや弓塚の不在。頭にぐるぐると、けれどうまくまとまらずにバラバラに思考が散っていく。

「それでは各自稽古を始めてください。相方が必要な人は今この場にいない人でなければグループで稽古を行うように」

 事前に考えていたような稽古内容を伝える先輩。もしかしたら晶ちゃんがいない時にはこうするように頼まれていたのかもしれない。

 俺の相方である弓塚はいない。俺は……


ひとり言:一人で稽古して弓塚を待とう

ふたり言:相方がいないシエル先輩とセリフの読み合わせに付き合ってもらおう

たにん事:弓塚やシオンを探しに行こうか……いや、でも…………

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最終更新:2006年12月27日 14:42