690 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/12/16(土) 00:52:59
「アーチャーが言ってたんだけど。
新都に居るという薔薇乙女《ローゼンメイデン》を知ってるか?」
「……そう、アーチャーと会ったのね。
ならばその質問は妥当だわ」
キャスターはなにか納得したように一つ頷くと、俺の疑問に答えた。
「ええ、知っているわ。
新都の人形は、今現在、一番積極的に動いている人形ですもの」
積極的に、か。
それはつまり、一番アリスゲームで戦いたがっている奴、ってことだ。
もしそいつが、水銀燈と出会ったら……いや、止そう。
「アーチャーから聞いた話だと、夜でも動ける、単独行動できるドールだってことらしいけど」
そう尋ねると、キャスターは、おかしなリアクションを取った。
一旦驚いたように目を見開いた後、いぶかしむような視線を向けて、そのあとに合点がいったと言うように大きく頷いたのだ。
「……そう、貴方たちの目には、そう見えるのかしら」
ただ確認するだけのような口調。
そこに嘲笑も蔑みもなく、だから俺もその言葉を単なる事実として受け止めた。
俺とキャスターでは、見えているものが違う。
どうやら、そういうことらしい。
「どういうことだ?
ミーディアムは居たけど、アーチャーには見えなかったとでも言うのか?」
「その通りよ。その人形は契約を結んでいる。
少なくとも、私が観測した限りではね」
そんな馬鹿な。
仮にもアーチャー、鷹の目を持つ弓の英霊が、相手の姿を確認しそこなうなどあるのだろうか。
だが、もし本当に見えざるミーディアムが居たのなら。
……ふと、一瞬、茨の鎖につながれた氷室の姿を思い浮かべた。
「待てよ、積極的ってことは、それだけ力を使ってるって事だろ?
そいつのミーディアムは無事なのか?」
もしそのミーディアムが魔力のない一般人だとしたら……。
消滅、という言葉が頭をよぎり、知らず知らず、湯飲みを握る指に力がこもる。
しかし、キャスターの返答は俺の心配を吹っ飛ばした。
「その心配なら無用よ。
なにしろ、契約者はサーヴァントだし」
691 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [今話ラスト選択肢sage] 投稿日: 2006/12/16(土) 00:54:04
「なっ……!?」
よ、よりによって、サーヴァント!?
アーチャー以外にも、ドールと契約しているサーヴァントが居たのか……!?
「い、一体誰なんだ!? 新都ってことは、ランサーか、ギルガメッシュか!?」
「それは言えないわ……いえ、言っても意味がない。
会えば分かる、としか言えないわ」
動転する俺を冷静に往なして、ゆっくりと茶をすすった後、キャスターはぽつりと付け加えた。
「……まあ、坊やは会えないでしょうけど」
「は?」
会えば分かるけど、会えない?
謎かけのような言葉に混乱する俺に、キャスターがさらに続ける。
「夜に会えば、坊やはまず間違いなく殺される。
相手の人形は契約者を殺すことにも、おそらく躊躇いはないでしょうし。
けれど、昼に会おうと思っても、その相手には絶対に会えないでしょうね」
「会えない、って、なんでさ?」
「貴方に限っては、追いかければ追いかけただけ逃げられるということよ、坊や。
でも、そうね。もし、どうしても会いたいというのなら――」
キャスターは湯飲みを置いた。
そしてまっすぐに俺の眼を見て、こう告げた。
「『鏡』に向かい合いなさい。その先でならば、逢えるかもしれないわ」
「かが、み……?」
冷たい空気に包まれた土蔵にひっそりと立つ姿見。
その先にあるものは、すなわち……。
「私が話せるのはここまでよ。
後は坊やの好きにしなさいな。
但し、この寺にはこれ以上厄介ごとを持ち込まないで頂戴」
そう言ったきり、キャスターはそれ以上なにも話そうとはしなかった。
自分で呼び出しておいて、と思わなくもないが、キャスターがここまで話してくれただけでも充分ありがたいことだとも思ったので、ここは何も言わないでおこう。
俺は、最後にぐいっとお茶を飲み干すと、場の空気に追い出されるように部屋を出た。
帰ったら、まずは水銀燈と相談しよう。
氷室と雛苺のこと。
アーチャーとそのドールのこと。
まだ見ぬミーディアムとドールのこと。
なんにしろ、話すことには事欠かなさそうだった。
α:その夜、衛宮邸
β:その夜、遠坂邸
γ:その夜、新都
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最終更新:2006年12月16日 09:04