677 名前: Double/stay night ◆SCJtHti/Fs 投稿日: 2006/08/28(月) 23:10:05
参 ひらめいた。夜はレストランを予約してデートだ、デート。
「デート……、ですか?」
「ああ、デートしよう」
「でも……、あの、先輩、デートってあのデートですよね」
「ああ、そのデートだ。嫌だった?」
「いえ! そんなわけありませんけど!
でっ、でもそんな突然デートだなんてわたしほら普段着ですしお化粧もしてませんし下着も普通のですしっ。
なによりわたしなんかとデートなんてせんぱいデートってそんなこと……、
や、やっぱり冗談ですよね……?」
「冗談なんかじゃないさ。桜、俺とデートしてくれないか……、ってどこにいくんだ桜っ!」
「うわーん。せんぱいのばかばかばかー!」
今時、小学生のカップルでさえしないような初々しすぎるやり取りは、白昼堂々、近所の注目をこれでもかと集めていた。
「……つまんない」
夕方、商店街の真ん中で、イリヤはぽつりと呟いた。
もう何時間もの間、彼女は士郎を探して歩き回っていたのである。
衛宮邸は無人で、学校は休んだらしく、そして商店街にもくる気配がない。
「本物に会えば……、少しは楽しくなると思ったのにな……」
道ばたに落ちてた小石を蹴った。ころころと転がり、溝に落ちる。
赤い赤い夕焼けの中、イリヤ自慢の白い髪は、血塗れた色に染まっていた。
もうすぐ、帰らなければいけない。
そろそろアサシンも用事を終えて、待ち合わせ場所で待ってる時間だ。
「ランサー、仕事だ」
「……あん?」
言峰綺礼に話し掛けられるだけで機嫌が悪くなるのか、ランサーは睨み殺さんばかりの目付きで実体化した。
アイルランド最高の英雄の、怒りに満ちた鋭い眼光。
しかし、綺礼は微かに動じる素振りすら見せない。
「この魔術師を探し出して襲え。だが殺すな。適当にいたぶって恐怖させろ」
「女か。まだ若いな。ガキじゃないか」
綺礼の渡した写真には、青いドレスに身を包んだ、金髪の少女が映っている。
「で。こいつを襲ってどうしろって?」
「なに。聖杯戦争の開始を待ちきれない未熟者から急かされたのでな。こ
れも監督役の仕事の一環だろう。サーヴァントに対抗する手段はサーヴァントのみ。
早く召還するよう尻を叩いてやれ」
「……はっ、お断りだ。あいにく俺には女を嬲って喜ぶ趣味はないもんでね。自分でやれよ」
「方法はまかせる。ただともいわん。召還されたサーヴァントはお前の好きにするといい」
綺礼の言葉がどれほど意外だったのか、そしてどれほど魅力的だったのか。
ランサーの瞳は光り、唇は獣の歓びに釣り上がる。
「……いいのかよ? まだ全部のサーヴァントとは戦ってないんだぜ?」
「かまわん。致し方あるまい」
「ふふっ……。ではミスタ・エミヤも?」
「ああ、恥ずかしいんだけどさ。
この辺りは似たようなビルが沢山あるから、慣れないうちはよく間違えちゃうよな」
新都の街を歩きながら、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトは日本人の男と話していた。
はじめはナンパかと警戒したが、目的のホテルが分からなくておろおろしていた彼女を見兼ねて声をかけてくれたと知って、
島国らしくない殊勝さだと感心したものである。
「このホテルだろ? ほら、メモ書きと名前が一致する」
「ええ、どうやらそのようですわね。どうもありがとうございました。
感謝いたしますわ」
「別にかまわないって。それに珍しいパターンだったからさ」
「珍しい……?」
「あ、いやその……。外国の美人さんと話す機会なんて滅多にないから」
「まあ、お上手」
運んでもらっていたトランクを受け取り、ルヴィアゼリッタは社交的な笑みを浮かべる。
「じゃあ悪いけど連れと待ち合わせしてるから」
「ええ、わざわざありがとうございました」
「ああ、そうだ」
「どうかなさいました?」
「もし君が俺に会ったら、よろしくって伝えてくれ。じゃ」
「…………?」
678 名前: Double/stay night ◆SCJtHti/Fs 投稿日: 2006/08/28(月) 23:12:05
「もうっ、先輩ったらこんなもの買っちゃって。藤村先生に怒られますよ?」
「いいじゃないか、少しぐらい。
それにそもそも、桜があんなに欲しそうにしてたからいけないんだぞ」
「一言可愛いっていっただけじゃないですかっ!
大体どこに置くんですか、こんなに大きなぬいぐるみなんてっ」
「桜の部屋じゃ駄目か?」
「わたしの部屋、ですか?」
「おう、今使ってる客間。あそこを桜の部屋にしよう。
これから沢山物を増やさないとな。これはその第一号だ」
等身大に近いうさぎのぬいぐるみを抱えながら、士郎は客間改造計画の構想を楽しそうに語る。
曰く、ぬいぐるみ、クッション、姿見。女の子の部屋には必要なものが山ほどある。
服だって沢山必要だ。桜も必要なものがあったら遠慮なくいうんだぞ。
「せんぱい……」
「だから泣くなって。ほら、涙をふいて。俺達はもうずっと前から家族じゃないか」
春になったら花見をして、夏になったら海へ行こう。
秋になったら紅葉狩りして、冬はやっぱりスキーかな。
毎日楽しく笑いあって、桜と料理の腕を競い合うんだ。
あ、もちろんちゃんと喧嘩もしような。
家族ってのはやっぱり、飽きるぐらい喧嘩をしないと嘘だから。
それは、霊体化して付き添うライダーが聞いても恥ずかしくなるぐらい、明るく楽しい未来の姿だった。
「よしっ、それじゃあ最後はホテルに行こうか」
「ホ、ホテルにですか!? あの……、先輩、それって、まさか家族ってもしかして……」
「おう。予約はちゃんといれておいたからな。やっぱりデートなら奮発しないと。
桜もその方が楽しいだろ?」
「は、はい。わたしは先輩といっしょなら。……期待しても、いいんですよね」
「もちろんさ」
頬を染めて潤んだ瞳で見上げる桜の手をとって、士郎は夜の街へと歩き出した。
彼よりひとまわり小さい桜の手。
握るとおずおずと握り返してきてくれて、それが士郎には嬉しくてたまらない。
「やっぱり豪華な食事といえばホテルのレストランに決まりだよな」
「……………………せんぱい?」
それは、突然の出来事だった。
士郎がホテルのビルについたとき、遥か上空から爆発音と悲鳴が響き、ついで付近にガラスの雨が降り注いだ。
一瞬の出来事で士郎には何がなんだか分からなかったが、
さらには青いドレスを着た少女が降ってくる、なんてハリウッド顔負けの展開がまっていたのである。
絶望的な速度で地面に叩き付けられる運命にあった少女は、しかし轟音とともに無事着地した。
アスファルトは蜘蛛の巣のようにひび割れているが、彼女自身は信じられない事に無傷である。
士郎と桜がほっと一息ついたのもつかの間、ビルの上、割れた窓ガラスの向こう側で、真紅の魔槍が咆哮を上げる。
全ては一瞬の事。彼自身でさえどう判断したのか、どうやって体を動かしたのか分からない。
気がつけば士郎の体は少女を守る盾となって、無力に、しかし堂々と立ちふさがった。
「ライダー! お願い!」
桜の叫びに呼応して、何もない空間からサーヴァントが出現する。直後に爆発する白い光。
凄まじい力で引っ張られて、士郎と桜、それにドレスの少女がその場から消えた。
内臓を丸ごと吐き出しそうだったと、後に士郎は語っている。
士郎が意識を取り戻したとき、そこは何故か衛宮邸だった。
深夜だというのに付きっきりで看病をしていたのか。
心配していた桜は嬉しそうに笑い、しかしすぐに気まずそうに目をそらした。
ドレスの少女はルヴィアゼリッタと名乗り、なぜだろうか、また会いましたねと士郎に微笑む。
ありとあらゆる展開が、なにもかも士郎の理解を超えていた。
やがて落ち着いてきた士郎は、まず真っ先に二人に向かって口を開き―――。
壱 桜に詰め寄った。
弐 ルヴィアゼリッタに詰め寄った。
参 目隠しをしていた女性について尋ねてみた。
四 都合が悪いなら何も聞かない、と宣言した。
最終更新:2006年09月13日 03:25