28 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/01/14(日) 15:01:09


 大きなビニール袋の中は、所狭しと人形が押し込められていた。

「どう? これ全部、自力でゲットしたのよ?
 最後のほうなんか、店員さんのほうが筐体にキックかましてたんだから」

 ああ、そりゃあ店員さんも災難と言うか、厄日と言うか。
 いや、それはいいとしてだな。

「これって、確か……」

 一番最初に目に付いた人形を取り上げて見る。
 垂れた耳、短い手足、ぺろんと出した舌、どこか眠そうな目。
 蝶ネクタイをつけた犬のぬいぐるみ。
 これには見覚えがある。確か……。

「……それは!?」

「おわっ!?」

 いきなり後ろから、水銀燈が飛び込んできた!?
 そのまま俺の腕ごと、ぬいぐるみに飛びつく水銀燈。

「ちょっ、水銀燈!?」

「これは……くんくん!? くんくんじゃない!」

 水銀燈の言うとおり、これは大人気テレビ番組の、たんてい犬くんくんのぬいぐるみだった。
 特徴を捉えてある、よく出来たものだったが……やたら大きいな、このぬいぐるみ。

「ああ、それ、筐体に入ってたぬいぐるみの中でいっちばん大きかったやつね。
 あんまり大きいから出口につっかえるんじゃないかって心配だったけど」

 そりゃそうだろう。
 なにしろ水銀燈と同じくらいの大きさなのである。
 これがUFOキャッチャーの景品として鎮座していたとは思えない。
 当の水銀燈は、くんくんをじっと見つめているが……。

「おーい、水銀燈……?」

「………………」

 聞いてないし。
 なんだかここんとこ、水銀燈の新しい一面が色々出てくるなぁ。

「……そんなに気に入ったのか、ソレ?」

「……ハッ!?」

 ようやく我に返る水銀燈。
 しがみついていた俺の腕から飛び降りて、体裁を取り繕うが、顔が赤い。

「な、なにを言うのよ……この私がたかが犬の探偵を気に入るわけ無いじゃない……ほんと、つまんなぁい」

 あの、そう思うなら、その手に掴んで話さない犬のぬいぐるみをどうにかしたほうがいいと思いますが。
 それに、そういう態度を取られると、こちらとしても少し悪戯心が出てきてしまう。

「そうか。じゃあ他の人形のほうがいいかな?
 これなんかどうだ、装着変身シリーズ……」

「ま、待って!」

 くんくんを脇に寄せて、他の人形を取り出そうとする俺を、慌てて遮る水銀燈。
 目を逸らしながら言い訳を探すその姿は、実に新鮮でかわいらしかった。

「……け、けど良く見たら、他の人形よりははるかにマシみたいねぇ。
 仕方ないから、このくんくんでガマンしてあげるわぁ」

 ……それがいいなら素直に言えばいいのに。

「じゃあ、藤ねえ。このぬいぐるみ、貰ってもいいかな?」

「いいわよ。大事にしてあげてね、水銀燈ちゃん」

「……ふん」

 あくまでそっぽを向いて、しかしぬいぐるみを手放さない水銀燈。
 こうして俺たちは、くんくんの人形を手に入れたのである。

29 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/01/14(日) 15:02:25



「でもさ、そのぬいぐるみ、水銀燈の力で操るんだよな?」

 土蔵に戻る道すがら、俺は本来の目的を思い出した。
 隣では水銀燈が、くんくんのぬいぐるみを抱えながらふらふらと飛んでいる。
 代わりに持とうか、と言って見たのだが、頑なに断られた。

「いやぁよ。真紅なんかに見せたら、勿体無いじゃない。
 くんくんはここに、大事に置いておくんだから」

 ……おーい、それって本末転倒って言わないか?
 どうやら水銀燈は、本格的にそのぬいぐるみを気に入ってしまったらしい。

「じゃあどうする?
 もう一度藤ねえに分けてもらいに行くか?」

「必要ないわ。
 そもそもあの女が持っていた人形じゃ、意味がないもの」

 ……意味が、無い?

「どういうことだ?」

「そもそも、人形とは持ち主の思いが篭もるもの。
 それは長い時間をかければかけるほど積み重なっていくものなの。
 あそこにあった人形には、共にした時間が欠けていたわぁ」

 ああ、なるほど。
 神秘は時間をかけてより強い神秘になる。
 人形もまた、神秘の一種というわけか。

「そんな人形じゃ、真紅相手には役立たずだもの。
 持ってても持ってなくても、変わらないわぁ」

「……わかった。
 人形が欲しいなら、別の当てを探さなきゃ駄目ってことか……」

 ……それにしても。
 薔薇乙女《ローゼンメイデン》第五ドール、真紅。
 水銀燈がここまでこだわる相手とは、一体どんな奴なんだろう?
 真紅の名前を聞いてからの水銀燈の態度は、俺なんかには測りきれないほどの感情を秘めているようだし。
 何がそこまで、彼女を思いつめさせるのか……?

「水銀燈。ちょっと聞いておきたいんだけど……」


α:「その真紅って、一体どんなドールなんだ?」
β:「お前、そんなに真紅って子が嫌いなのか?」
γ:「お前、そんなに真紅って子が好きなのか?」

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最終更新:2007年01月14日 20:29