215 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/01/26(金) 19:14:30


「じゃあ、こうしよう。
 誇り高い主を歩かせたりなんかしたら、こりゃ従者の名折れだ。
 これも従者の務めだと思ってさ。これくらいはやらせてくれよ。
 それならいいだろ?」

 そうだ、俺は水銀燈の従者として契約した。
 なら、従者らしい振る舞いをしなければならないはずだ。
 ……だが、水銀燈は俺をじっと見つめた後、つまらなそうに鼻を鳴らした。

「……ふん。随分口が良く回るじゃない。
 そんなに下僕らしくしたって、今更だわ。
 ホント、くだらなぁい」

 勢いよく広がる漆黒の翼。
 ぱしん、と俺の手を打ち据えて、水銀燈の身体が宙に浮く。

「第一、あんな恰好を真紅に見られたら、何を言われるかわかったもんじゃないわ。
 つまり、余計なお世話。わかったらさっさと行くわよ」

 そう言い残すと、住宅街の空を率先して飛んでいく。
 ……駄目か。
 これを機に、水銀燈のことをもっと知る事が出来れば、と思ったんだけどな。

 ――それとも、昨日のうちに謝っておけば、少しは違ったんだろうか。

「なに、ぼうっとしてるの?
 遅れたら本当に置いていくわよ」

「あ……ああ」

 既に前方に小さく見える水銀燈に、そう言われて我に返った。
 そして、同時に気がつく。
 『まだ』前方に小さく見える……飛ぼうと思えばどこまでも飛んでいけるだろうに、水銀燈は追いかけることが出来るくらいの速度で飛んでくれているみたいだ。
 これは問答無用で置いていかれないだけ、マシと言うべきなんだろうか。

「って、遠坂の家の場所知らないんじゃないか、あいつ……?」

 俺は慌てて、水銀燈の背中を追いかけて、走り出した。

 さて、俺の家から遠坂の家までは、深山町を北から南へほぼ縦断することになる。
 水銀燈が自分で飛んでしまっている以上、他人に見られたら言い逃れは出来ない。
 『こちら側』の事情を分かってくれる奴ならともかく、何も知らない一般人に目撃されたらお手上げだ。
 さて、そうするとどういうルートを進むべきなんだろうか……?


α:商店街を突っ切る最短ルート。
β:学園側に迂回する左回りルート。
γ:大橋側に迂回する右回りルート。

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最終更新:2007年01月26日 22:52