518 :運命夜行  ◆ujszivMec6:2007/03/06(火) 03:16:04

「――――っ」

 はじめての白い光に目を細めた。
 まぶしい、と思った。
 目を覚まして光が目に入ってきただけだったが、そんな状況に馴れていなかった。
 きっと眩しいということがなんなのか、そもそも解っていなかったのだ。

「ぅ―――――お?」

 目が慣れてびっくりした。
 見たこともない部屋で、見たこともないベッドに寝かされていた。
 それには心底驚いたが、その部屋の白さと清浄さはオレには馴染みのないものなので、正直、居心地が悪かった。

「……どこだよ、ここ」

 ぼんやりと周りを見る。
 部屋は広く、ベッドがいくつも並んでいる。
 どのベッドにも人がいて、みんなケガをしているようだった。

 と、隣のベッドで、オレと同じように周りを見渡していた赤毛の少年と目が合った。
 どうやらオレと同じタイミングで目を覚ましていたらしい。
 特に気の利いた挨拶も思いつかなかったので、とりあえず目を逸らした。

 ――――窓の外。
    晴れ渡った青空がたまらなくキレイだった。

 それから何日か経って、ようやく物事が飲み込めた。
 オレがナニモノなのかようやく思い出せた。
 それでも、このときのオレは生まれたばかりの赤ん坊と変わらなかった。

 それは揶揄ではなく、まぎれもない真実であった。

 そもそも、オレは人間ではない。
 名前すら奪われた、虚無そのものである。
 強いて名称をあげるなら、アンリマユ、ということになる。
 アンリマユ―――拝火教における、悪性の容認者。言ってしまえば、悪の神様である。  
 もっともオレは神様なんて大それたものではなく、悪神扱いされていた、ただの生贄だったのだが。

 そんなモノがなんで現代日本にいるのかというと、聖杯戦争とかいう儀式のために呼び出されたからである。
 願いを叶える器である聖杯を賭けて魔術師と英霊であるサーヴァントが殺しあうバトルロイヤル。
 そいつにサーヴァントとして呼ばれたはずが―――いつの間にか聖杯そのものになっちまっていた。

 ところが、今回の聖杯戦争終了間際に、最後に残ったサーヴァントが聖杯をぶっ壊したのだ。
 そのはずみだろうか、オレは現界してしまった。
 だが、虚無であるオレはそのままでは人格もなく、何もできない。
 行動するには誰かの殻を被って、そのキャラクターを借りるしかなかった。
 そこで、その時偶然目の前をフラフラと彷徨っていた少年の殻を借りたのだが、
 そいつが死に掛けていたため、オレまで死に掛けてしまったのだ。

 そして、病院に運ばれて、このベッドの上、というわけである。

 ―――で、そのあと。
 聖杯もぶっ壊れたし、これからオレどうなんのかなー、なんてぼんやり考えていた時に、そいつはひょっこりやってきた。


519 :運命夜行  ◆ujszivMec6:2007/03/06(火) 03:20:47

 包帯がとれて自分でご飯が食べられるようになった日に、その男はやってきた。

 しわくちゃの背広にボサボサの頭。
 おっさんというにはちょっと若かった。。

「こんにちは。君たちが士郎くんにアンリくんだね」
 白い日差しにとけ込むような笑顔。
 それはたまらなく胡散臭くて、とんでもなく優しい声だったと思う。
 ちなみに士郎というのは、オレの隣で寝ていたヤツで、オレの殻の元になった少年である。

「率直に訊くけど。孤児院に預けられるのと、初めて会ったおじさんに引き取られるの、君はどっちがいいかな」

 そいつはオレたちを引き取ってもいい、と言う。
 ……それは、とにかくうだつのあがらない、頼りなさそうなヤツだった。
 けど孤児院とそいつ、どっちも知らないコトに変わりはない。
 士郎はそいつのところに行こうと決めたらしい。
 それなら、とオレもそいつのところに行こうと決めた。

「そうか、良かった。なら早く身支度を済ませよう。新しい家に、一日でも早く馴れなくっちゃいけないからね」
 そいつは慌しく荷物をまとめだす。
 その手際は、オレから見てもいいものじゃなかった。
 で、さんざん散らかして荷物をまとめた後。

「おっと、大切なコトを言い忘れた。
 うちへ来る前に、一つだけ教えなくちゃいけないコトがある」

 いいかな、と。
 これから何処に行く? なんて気軽さで振り向いて、

「――――うん。
 初めに言っておくとね、僕は魔法使いなのだ」

 ホントに本気で、仰々しくそいつは言った。

「――――うわ、爺さんすごいな」
 コレが士郎の感想。
 で、オレはというと、
「――――へえ、アンタ、魔法使いだったのか」
 ……いや、下手に魔術の存在を知ってる分、額面どおりに受け取ってしまったのである。

 そうして、オレは親父の養子になって、衛宮の名字を貰った。
 衛宮杏里。
 かつて名前を奪われたオレに与えられた、新しい名前。
 自分に名前がある、というのが嬉しくて、何度も口にしたのを覚えている。
 そしてオレの兄弟となった衛宮士郎。
 オレに家族ができた、というのが純粋に嬉しかった。
 オレの内にある憎しみを上回るほどに嬉しかったのだ――― 


 正義の正位置:衛宮士郎視点でスタート

 正義の逆位置:衛宮杏里視点でスタート

 塔の正位置:連載終了


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最終更新:2007年03月09日 03:21