569 名前: くとぅるふクロス ◆69.0kY8lhQ [sage] 投稿日: 2007/03/09(金) 17:55:39
夕陽が屋敷を染め上げる中、切嗣の葬儀は始まっていた。
月見をした日より数日が経過している。
その翌日に士郎は藤村家へ足を運び義父が亡くなった事を家長の雷画へ告げた。
遺体を残さずに死んだと言われても所縁のある人達は納得出来なかったが、
切嗣の部屋から遺書が見つかり極少数での送葬となった。
空っぽの棺には故人の思い出の品が代りを務めている。
先ほどまで姉のように親しくしていた大河は
泣き疲れて組の者に背負われ、いとまを告げていた。
一人、また一人と減ってゆく参列者の中で雷画は最後の一人となった。
「坊主、今日から俺が後見人になる。
ホントにうちに来なくていいのか?」
「此処がいいんだ。心遣い、感謝します」
「子供の癖に無理して振舞わなくていい。泣いたっていいんだぞ?
俺が知ってる切嗣さんの知人には連絡したが、皆つらい顔をしていたな。
それだけ大きな人だったんだ。身近な者ならその苦しみもいっそうだったろう」
「……はい」
空虚な屋敷の中でも故人の残滓が漂う家で二人は彼の事を思い返す。
赤い空から鴉の鳴き声が響く中、雷画はダーティーな口元を歪ませて話しかけた。
「なあ、お前さんなら知っているかもしれない。
切嗣さんって何だったんだ?」
「正義の味方でした」
「知ってる。でも俺がガキの頃からあの姿のままだったんだぞ。
冬木に新都は無くてこの辺りが田んぼだった頃に用水路に落ちてな、
助けてくれた切嗣さんは俺を抱き上げて笑っていたよ」
士郎は言葉を出せなかった。
切嗣が残したあの本に手掛かりはあるのかもしれない。
黒い気配に濡れた表紙を見つめているとそのまま一日が過ぎ去ってしまった。
開けるのが怖かったのだ。中身はきっと狂気が詰まっている。
義父の残り香も感じるがそれでも躊躇いはある。
「長居しちまったな。
そろそろ帰る。これからの事は俺の方でするから
近いうちに遊びに来い」
帰り支度を終えた老人は年寄りらしからぬ俊敏な動作で玄関へ向う。
士郎は見送るためにその後ろを歩む。
赤光の中、長い影を従えて去ってゆく。
以前見かけた際は春風の如き風来坊といった趣の人物であったが
夕暮れの背中姿は覇気が無く寂しさを感じさせる。
士郎は土蔵へ向かい屋敷を眺める。
これからやらなくてはならない事がたくさんある。
遺産の整理や建物の管理等は一括して雷画氏がやってくれる。
黒本は机の下段に保管した。そのうち記述された内容を見なければ。
思考をしつつ玄関へ戻ると見知らぬ人物が居た。
A 魔術師 間桐臓硯あらわる(&桜)
B 隠秘学者 コンラッド・ジョンきたる(&キロワン教授)
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最終更新:2007年03月10日 20:13