590 名前: 僕はね、名無しさんなんだ [sage] 投稿日: 2007/03/10(土) 17:01:39
「お初に御目にかかる、
間桐臓硯と申す。これは孫の桜じゃ。
この度の事、お悔やみ申し上げる」
老人の枯れた声に意識を向ける。
小さな体だが眼光は鋭く纏った空気は雄大であり見た目以上の大きさに見える。
士郎と同年齢ぐらいの少女の方は薄弱な意思と
隣にある強烈な個性のためか人形の様な存在にしか感じられなかった。
「切嗣の弔いを致しに参った。
棺の所へ案内願えんか?」
「どうぞ」
士郎は切嗣のいない室内へ誘う。
踏みつけられた床の軋む音は静かな屋敷の中での慰めになる。
故人の棺桶を前に老人は口を開き言葉をつむぐ。
「遠まわしにするのは苦手での。
単刀直入に訊かせて貰うとしよう。
お主は切嗣の最期を見たか?」
空が青紫色に変色しつつある中、本題を切り出した臓硯は実直な声で士郎に尋ねる。
問われた方は一瞬の空白あとその意味に愕然とする。
世界すら認めず事象を螺子曲げて誤魔化した、かの来訪を臓硯は認識していたのだ。
その慌てる姿を確認した翁は鷹揚に頷くと口元を歪め微かに笑う。
息苦しさを感じた士郎は長い話になるかもしれないと思い立ち
台所から老人と少女の緑茶を用意し客間へ案内をする。
「あれらを視たのじゃな?
眼を逸らさず認める胆力は見事じゃの。
切嗣も草葉の陰で喜んでおるよ」
「間桐のお爺さんは何を知っているんだ?
アレは一体?」
「慌てずともよい。順番に語ろう。
その前に切嗣は魔道書をお主に託しは
しなかったかの? 所持しておるなら拝見したいものよ」
士郎は懊悩する、はたしてあの黒本を見せていいのかと。
老人は只者ではない。義父と何らかの縁があるようだが
最悪は敵対者の可能性さえある。
その心配を見越した様に翁は笑い声を発した。
「カカカ! 存外、警戒心が強いお子じゃの!
結構な事じゃて。阿呆の様に信用するよかの」
「ふむ、ワシはもう持っておるよ。
奪ったりはせん。証を見せてやろうぞ」
告げて取り出した一冊の本、B4サイズのノート程の厚さに
茶色の表紙が黄ばんだ紙を包んでいる。
重厚な量では無いが端の方が擦れて襤褸になっており使い込まれた事が伺える。
刹那の間、表紙が隆起し蟲の様に這いずり回ってタイトルらしきモノを造り出す。
その穢れた名前は──
A 妖蛆の秘密写本(Mysteries of the Worm)──弱?
B 妖蛆の秘密 (De Vermis Mysteriis)───強?
C 爺やの冒険譚 (暗黒惑星~ヒヤデス星団旅行記)
D 私の闘争 (迫り来る最低、折れたスコップ。闘魂未だ尽きず)
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最終更新:2007年03月10日 20:14