648 名前: くとぅるふクロス ◆69.0kY8lhQ [sage] 投稿日: 2007/03/11(日) 16:17:16


 客間へ戻る頃には士郎は一通り思い出していた。
 あやふやな部分もあるが、マナとオドの関係や魔力は誰でも一定量は所持している事。
 されど魔術回路と呼ばれる魔力を行使するための線が体に無ければ魔術師とはいえない。
 幸いにして自分に魔術回路は存在しており魔力も常人に毛の生えた程度だが保有している。
 回路には魔力を放出する弁があり、意識を其処へ流してスイッチの開閉を切り替える。

 魔術とは家系の魔術刻印を通して代々伝えられしモノで
血縁が無ければそれを継承する事は出来ない。
 いわば士郎は根源を目指す魔術師の中でヒエラルキーの最下層に位置する。
 しかし彼にとって問題は無い。強化しか使えないが人を幸せにするのに必要なのは
魔術では無く切嗣の様な男であると信じていた。


 士郎はテーブルに魔本を乗せて臓硯に鑑定を願う。
 老人は立ち上がり様々な角度から観察したのち
自らの所持する魔術書に記載された一文を指でなぞる。
 紅い蝿が輪を描いて空間を歪曲させ血のベールで翁を包む。

 おぞましき風景に士郎の心胆が冷えてゆく。
 臓硯の持つ『妖蛆の秘密』から悪辣な意思が漏れ出す。
 逃げる者、戦う者とわず奪い尽くして凌辱してやると。
 義父の残した『我埋葬にあたわず』も同じ様な存在である事に
 戦慄を覚えてしまった。

 「その本で何を?」

 「簡単な防御血塊じゃ、力ある魔術書を前に徒手空拳で挑むのは老体には堪える」

 臓硯は嫌悪感をもたらす血液で手を塗装し切嗣の遺品に触れる。
 士郎はその暴挙を咎めたかったが魔本が片っ端から血液を略奪しており
血塗れに汚される事は無い。安堵のため息が洩れた。 
 双方の魔道書は悪意をむき出しにして貪りあう。

 「この魔道書、内容の多くはマリク・タウスという
  魔王を賛美するアラビア語で構成されておるの。
  あまり知名度の高い存在では無いようじゃ。
  こんな名前ワシは聞いた事も無い」

 表紙の端を手に重力の慣性に任せてページを落とす様に臓硯は閲覧をする。
 士郎が持っていた時とは違って漆黒の脅威が攻め立てている。

 「元が地球出身の神であり存在は悪であれど
  外なる神々に自分の庭と思っておる領地を
  奪われるのは我慢ならなかったのか?
  戦いの記述部分には眷属を蹴散らす挿絵があるの。
  他にも詳細はあるが、
  灰白湾のヴォルヴァドス(Vor-vadoss of the Grey Gylt)
  に闘争を挑まれ炎で追い散らされ何処かへ去ったらしい」

 「ほう! かのスレイマン大帝も使っておったのか。
  近代の持ち主は背徳の魔術師ジョン・グリムラン、
  その後に切嗣が何らかの経緯で入手したみたいじゃのう」

 興奮した面持ちでページを読み耽る臓硯。
 侵食しあう異常空間をものともせず夢中になるのはいいのだが、
士郎と桜は狂気が迸るこの状況にもう耐えられそうに無い。

 士郎は注意を引くために服の袖を引っ張る。
 翁は我に返って本を閉じた。青白い顔色の二人を眺めて言葉を放つ。

 「すまなんだ、配慮が足りなかったの」

 「それで、何かわかったのか?
  色々訊きたい事でいっぱいなんだけど」

 「応、尋ねるがよい」

 魔術書に関する初歩知識を臓硯から得た士郎は
最後の質問をする。義父はなぜ連れて行かれたのかと。
 翁は悼むように重い声で告げた。

 「契約したからじゃよ。
  二百五十年の寿命と叡智を対価に自己を売り払ってしまった」

 だから魔王にさらわれてしまったのか。
 そんなモノと契約してまで誰かの明日を守りたかったのか。
 悲しみが込み上げて来て士郎は耐え切れず、顔を隠す様に俯いた。
 妖術を手に異端空間を演出した老人もそうなのだろうかと疑問が湧く。

 「間桐のお爺さんも契約を?」


 A 臓硯は間髪をいれず答える。   (老人の闘争。偏屈者の意思)
 B 住人は先を急いだ。桜はまだかっ!(上記簡略)

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最終更新:2007年03月11日 17:42