663 名前: くとぅるふクロス ◆69.0kY8lhQ [sage] 投稿日: 2007/03/11(日) 23:53:30


 「こんな忌わしい書物と心中するものかよ、
  其処までしてやる義理はもう無いのう」

 臓硯の口元から薄情な人々に対する憤怒が声に乗って室内を巡る。

 始まりは何時であったか臓硯は思い出せない。
 旧支配者との出逢いから気が遠くなる様な年月が過ぎていた。
 強壮たるクトゥルーの眷属、ダゴンとの死闘の果てに上半身だけになってしまった
知己の魔術師から譲り受けた『妖蛆の秘密』を手にとって以来、ずっと走り続けてきた。
 今はもう歩む事すら困難で、あと百年のうちに動けなくなってしまうだろう。

 今日まで、様々な出来事があったはずだが、
 臓硯が覚えているのは戦友の事ぐらいしかない。
 自分は決して能動的に戦った事は無かった。
 いつも仲間に引き摺られて気がつけば戦場の真っ只中に居た。
 好きこのんで赴いたわけではないのだ。

 ジャンバリアから流れてきた自称、レムリア人が語った事が本当なら
幻想種達は彼らを恐れて妖精郷や境界の向こう側へ退避したらしい。

 それでも大いなる存在を前に人間は諦めず武器を手に取り立ち上がる。
 先人の残した叡智を用いて奉仕種族を操り、ある者は死後を代価に人間を捨てて。
 誰かの幸せを守るため、未だ見ぬ自らの子孫に綺麗な世界を残すため。
 戦いの中無念のうちに消えていった先祖のため。

 その姿があまりにも眩しくて、臓硯は誘蛾灯に誘われる様について行ってしまった。
 後悔は無い。本当に絶望的な状況ばかりだったが自分にとって黄金時代でもあった。
 隣には数代前の遠坂が居る。後ろには若きアインツベルン。
 震え上がって泣き言を漏らすには頼りになりすぎる友が自分には居たのだ。

 誰からも賞賛を受けたことは無い。
 されど仲間の笑いが絶えぬ世界は美しかった。

 終わりはついに来てしまった。
 アインツベルンは失われた第三魔法を取り戻す事に夢中になり敵を忘れた。
 息子の様に可愛がっていた遠坂の何代目かは戦いを有利に進めるため
銀の鍵の門を越えてセラエノ図書館へ旅立って以来戻らず。

 別れの際、”邪神を討とう”という約束を糧に
臓硯は執念で生き永らえて来たが、ついぞ帰って来なかった。
 既に完成しつつある聖杯(兵装)が待っているにもかかわらず。
 彼がヒヤデス星団から持ち帰る予定の知識を元に本物を作り出すため
作業を続けてはいるが無意味なのだろうか。

 ──否、断じて否! それでは何のために
 魂を削り戦ってきたのか分からなくなってしまう。

 自分の駆けた時間が無為だった等と認めるわけにはいかない。

 孤独では無い。
 強き遠坂は成果を持って必ず帰ってくる。
 賢きアインツベルンは必ず勇気を思い出す。

 仮定の話だが、もしも誰しも戻ってこないなら臓硯はせめて人間のまま生を終えたかった。
 躯は蟲で出来ていようとも心は人のまま走ってきたのだ。
 長い時を生きてきたが魔道書に魂を売った事は無い。
 売らずとも解読し、魔力を記述に通せば力は借りれるのだ。
 大切なのは取り込まれない事。是を守れば不都合は無い。 

 感謝さえ語らず、眼を背け続ける多くの人々のために戦うのは業腹だが、
仲間のためと思えば悪行さえ厭いはしない。

 その日のために戦力を、と思い立ち臓硯は時臣から桜を譲り受けたが
肝心の邪神達への認識が上手く行かない。
 衛宮の倅は都合のいい時期に現れた。
 是を奇貨として自身では出来ぬ手段を試すべきだと思い立つ。

 「のう、お主には様々なアウトサイダーの智識を与えた。
  魔術師の息子なら等価交換はわかるな?
  これから桜と仲良くしてくれんかの」 

 臓硯は過去との対話が終えるのを待っていた士郎へ視線を向ける。
 赤毛の少年は── 


 A 「これからよろしく」と言って桜に握手を求めた。(桜フラグON) 
 B 「ダガコトワル!」   と言ってみたが仲良くする。(桜フラグON)

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最終更新:2007年03月12日 03:23