654 名前: 運命夜行  ◆ujszivMec6 [sage 恋人の正位置] 投稿日: 2007/03/11(日) 20:24:38

「桜って士郎が好きなんだろ?」
「はい」
「…………」
「…………」
「……だからそこは『な、何を言うんですか! わ、わたしが士郎先輩を好きなんてそんなこと……』とかそんな感じじゃないのかね?」
「……杏里先輩は先ほどからわたしに何を求めてるんですか?」
 いや、なんつーか男の浪漫。

「それにしてもあっさり認めたなぁ」
「認めるも何も、この質問何回目だと思ってるんですか。いい加減慣れます」
 むう、このネタでからかいすぎたか。耐性ができてしまったらしい。

「昔はコレ聞くたびに真っ赤になってアタフタしてたのになぁ。あの頃の純真な桜は一体どこへ……」
「杏里先輩に鍛えられましたから」
「すっかり打たれ強くなっちまって……」
「杏里先輩に鍛えられましたから」
「胸も大きくなっちまって……」
「杏里先輩に……って、胸は関係ないです!」
 真っ赤になって胸を隠す桜。
 うむ、いいノリツッコミである。

「でも、その胸は財産、というかむしろ武器だぞ。そいつで迫れば士郎も落とせるんじゃね?」
「そ、そうですか?」
「うむ。少なくともオレは落ちるね。むしろ落ちないヤツは男じゃないね」
「は、はぁ……」
 いや、実際は世の中広いんで、無い方がいいヤツもいるのだが。
 ちなみにオレは両方イケる口だ。

「つーことで予行演習だ。オレを士郎だと思ってその胸で迫ってみなさい」
「……え、えぇっ!?」
「ささ、遠慮せずに」
「そ、それは……」
「いいからいいから。思い切ってこう、ガツ~ンと」
「……ってなに桜ちゃんにセクハラしてるかこのばかち~んっ!!」

 ガツ~ンッ!!
 痛ぇっ!?
 星だ! 星が見えたスター!

「ふ……藤ねえ、いつの……間……に……」
 弐式虎竹刀を構えた冬木の虎が、オレの背後でポーズを取っていた。
「わたしと虎竹刀がある限り、この世に悪の栄えることはな~い!
 というわけで桜ちゃん、悪は滅びたから、晩御飯にしよっか」
「あ、あの……大丈夫ですか、杏里先輩……?」

「うう……オレはもうダメだ……
 どこのどなたかは知らぬが、冬木という町の間桐桜という少女に会うことがあったら、こう伝えてくれ……
『衛宮杏里は荒ぶる虎と戦い、立派な最期を遂げた』と……!」
「あ、大丈夫みたいです、藤村先生。
 じゃあ、晩御飯にしましょうか。今晩のおかずはチキンのクリーム煮です」
「わーい、お肉だー!」
 ……ふふふ、オレの渾身のネタを華麗にスルーとは、本当に成長したなぁ……桜。

 晩飯を食い始めて、しばらくしてから士郎が帰ってきた。
「お帰りなさい士郎先輩。お先に失礼していますね」
「ただいま。遅くなってごめんな。もうちょっと早く帰って来ればよかったんだけど」
「いいです、ちゃんと間に合いましたから。ちょっと待っててくださいね、すぐ用意しますから」
「うん、頼む。手を洗ってくるから、人のおかずを食べないように杏里と藤ねえを見張っといてくれ」
「はい、きちんと見張っています」
「藤ねえと一緒にされた!?」
「杏里と一緒にされた!?」

 こうして、家族四人揃って晩飯を食った。
 士郎が桜の料理の腕前を褒めたり、藤ねえがオレと士郎の恥ずかしい過去を桜に暴露したり。
 まあいろいろあったが、概ね和やかな晩飯だった。

655 名前: 運命夜行  ◆ujszivMec6 [sage 恋人の正位置] 投稿日: 2007/03/11(日) 20:25:51

 晩飯の後片づけを済ませ、帰り支度をしている桜に、士郎が家まで送ろうか、と声をかけた。
「え……送るって、わたしをですか?」
「ああ。最近物騒だから家まで送る。桜ん家、けっこう遠いだろう。わざわざ来て貰ってるんだから、それぐらいはさせてくれ」

 律儀だねえ、士郎も。
 こういうところがモテる秘訣だろうか。
 当人は自分が密かに後輩にモテていることなど気づいてないのだろうが。

「……ごめんなさい。気持ちは嬉しいんですけど、士郎先輩は休んでいてください。家までだったら馴れてますし、一人でも大丈夫ですから」
 ……ってなんでそこで断っちまうのか、この後輩は。

「いや、それはそうだろうけど、今日は特別だ。しばらくは家まで送っていくよ」
「……でも、その……兄さんに見つかると、士郎先輩にまで迷惑がかかります」
「む――――」

 ああ、慎二が原因か。
 たしかにアイツ、桜がうちに来るの、嫌がってるからなぁ。

「いいじゃん別に、慎二が何と言おうと。あのシスコンもそろそろ妹離れするべきだろ」
 士郎が言い負かされそうになっていたので、加勢してみた。
「杏里の言う通りだ。慎二のことは、気にしなくていいから、桜を送らせてくれ」
「で、でも……先輩方、また兄さんとケンカしちゃうかもしれませんよ」
「あー、いいのいいの。むしろオレらと慎二の間でケンカなんて日常茶飯事だ」
「それに、あいつああ見えて隠し事とか嫌いだから。文句があるならすっぱり言い合った方がスッキリする」
 オレと士郎の連携説得に、桜は納得したのか観念したのか、
「わかりました。それじゃお言葉に甘えちゃいますね」
 と、微笑んで答えた。

「任せとけ。たまには先輩らしいトコみせてやるから。
 ……サンキュー、杏里」
「なに、これも可愛い後輩のためだ」
「そうだな、桜が危ない目に遭わないように、しっかり守ってくるよ」
 ……そういうことじゃないんだがねえ。
 報われないなぁ、桜も。

「うーん、杏里も男になったねえ、士郎に華を持たせるとは」
 ミカンを食べながら一連の会話をみていた藤ねえが話しかけてきた。
「どっちかっつーと桜に華を持たせたつもりなんだがな。
 ……ってなんだよ藤ねえ、そのニヤニヤは」
「べっつにー。でもいいのかなー。桜ちゃん、士郎に取られちゃうぞー」
「最初っから取られてるようなもんだから問題ねえよ」
「ふふふ、強がっちゃってまあ。
 ……と、そろそろわたしもおいとましようかな」
 のそのそと立ち上がる藤ねえ。
 と、何故かこちらを見て、
「杏里ー、おねえちゃん送っていってくれない?」
「やだ。めんどくせえ」
「なによう、桜ちゃんの時とはえらく態度が違うじゃない」
「親父の遺言でな、『女の子には優しくしよう』ってのがあってな」
「あー、切嗣さんの口癖だったわね。それがどうしたの?」
「藤ねえは残念ながら『女の子』のカテゴリーには属しておりません」
「なんだとゴルァ!」

 藤ねえが帰ったので風呂に入る。
 風呂からあがって居間に戻ると、士郎が帰ってきていた。
「士郎、風呂空いたぞ」
「わかった」
 立ち上がる士郎。
 そのまま、風呂場に向かおうとしたところで、
「あ、そうだ杏里。お前に、銀髪の女の子の知り合いっているか?」
「銀髪の女の子……?」
「今日のバイト帰りにそんな子に会ったんだけどさ、俺には心当たりないから、俺と杏里を間違えたんじゃないかなって」
 そんな知り合いは……あ、一名該当者発見。カレー屋にいたシスターである。
「んーでも、アイツは知り合いというか、ちょっと見かけただけなんだけどなあ」
 話とか全然してないし。
「でも銀髪の女の子ってそうそういないだろ? やっぱり杏里の見かけた子じゃないのか?」
「かもな。で、ソイツがどうしたって?」
「それが、いきなり『早く呼び出さないと死んじゃうよ、お兄ちゃん』って」
 死んじゃうよ、とは穏やかじゃない話だ。だいたい呼び出すって何をだ。だが、そんな事より……
「……『お兄ちゃん』? アイツ、そんなキャラだったのか……」

 ―――深夜。
 士郎は今頃、土蔵で日課の鍛錬を行っているはずだ。
 オレは―――

 月の正位置:深夜の散歩に出かけた

 吊るされた男の正位置:布団の中で眠ろうとしていた

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最終更新:2007年03月12日 15:16