671 名前: 運命夜行  ◆ujszivMec6 [sage 月の正位置] 投稿日: 2007/03/12(月) 02:59:45

 深夜零時前。
 どうにも寝付けなくて布団から起き上がった。
 襖一枚隔てて向こうは士郎の部屋なのだが、人の気配は無い。
 士郎は今頃、土蔵でいつもの『鍛錬』を行っているはずだ。

 縁側へ出て、土蔵を見上げる。
 中に士郎がいるはずだが、外からでは気配を感じられない。
 邪魔するのも悪いので、オレは土蔵の脇を通って裏口から外へ出た。
 そのまま、深夜の深山町を歩く。

 八年前、士郎が切嗣に魔術を習い始めた時は、オレも一緒に習っていた。
 だが、一ヵ月ほどでオレは魔術をやめた。
 理由は簡単、飽きたからである。
 毎回、死ぬ思いをして魔術回路を生成する。
 それはいい、オレにとって苦痛は大して苦痛じゃない。
 ただ、それに見合う結果が得られないのに嫌気が差したのだ。
 切嗣はオレが魔術をやめたことについては何も言わなかった。
 ……つーか、むしろ魔術をあんま教えたがってなかったからなぁ。

「八年もよく続くよなー、士郎も。それで全く上達してねえってのもある意味すげえけど」
 まあいいや。ドロップアウトしたオレには士郎にケチつける資格なんざないのです。
 オレにはそんなに物事を続ける根気なんて……いや、一つだけ続けてることがあったか。
 続けてるというか、正確には我慢し続けてるだけなんだが。

 そう、オレは我慢を続けている。
 ホントウは、ガマンなんて、シタクナイのに。

 ホントウは士郎が憎い。
 ホントウは桜が憎い。
 ホントウは藤ねえが憎い。
 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い―――!

 士郎を、コロシタイ
 桜を、オカシタイ
 藤ねえを、クラスメイトを、みんなを、コワシタイ
 憎しみで全てをノミコンデシマイタイ
 ノミコンデシマイタイ
 ノミ込んでしまいたいから、飲み込もう。
 ごちそうさん。

「うー、マズかった」
 吐き出しそうになった泥を飲み込んだ。
 ……いや、本当に口から泥が出かけたワケじゃないんだが。

 士郎たちを憎んでるのなんて、今さらだ。
 なんせ、オレは人間を憎むのが当たり前なのである。
 憎んだ上で、オレはアイツらとの日常を楽しんでるのだ。
 その日常は、憎しみで壊すにはあまりにももったいない。

 細工菓子を眺めてるハラペコのガキの気分だ。
 腹が減ってその菓子を食いたくてたまらないのに、そのあまりの出来のよさに、食うのをためらい続けている。
 せっかくこんなに綺麗なのに、今食ってしまったら永遠に失われてしまう。
 もう少し。もうちょっと。もっとこの日常を眺めていt

 ドォォォーーーーーーン

 何だ! 今のスゲェ音は!
 ヒトがせっかくシリアスに決めようとしてるのに邪魔しやがって!

 慌てて周りを見渡す。と、いつの間にか周りは洋館だらけ。
 どうやら桜の家の近くまで来ていたらしい。
 というかここはオレのクラスメイトの遠坂の家の前じゃないのか。
 ハテ、にしてもさっきの爆音は何だったんだろう。

「……雷か?」
 と、上を見上げれば雲ひとつない星空。
「…………なんだったんだ、いったい」

 まあ、そんな事よりさっきの続きだ。
 えーと、どこまでやったっけ。
 ……そうそう。『今食ってしまったら永遠に失われてしまう』からだ。
 もう少し。もうちょっと。もっとこの日常を眺めていたい。
 だから、オレは我慢し続けている。
 さて、せっかく今日も我慢できたんだ。明日も楽しい日常でありますように―――

 恋人の正位置:衛宮士郎視点

 魔術師の正位置:衛宮杏里視点

 女帝の正位置:エミヤ視点

投票結果

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年03月13日 00:13