898 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/03/21(水) 17:23:21
「あれ? あそこにいるのは、バゼット?」
道の向こう、新都のほうから歩いてくるスーツ姿の女性は、間違いなくバゼット・フラガ・マクレミッツ。
元、魔術協会の封印指定執行者という、凄い肩書きを持っているのだが……実は少し前までは、ウチに居候していた人だったりする。
今は郊外の幽霊屋敷を私物化……もとい、住居として生活してるようだ。
新しい働き口を探すのが大変らしく、ここしばらく姿を見てなかったのだが。
「士郎くん?」
っと、向こうも俺に気がついたみたいだ。
こちらを見て、なにやら怪訝そうな顔をしている。
ううむ、まあ当然か。空を飛ぶ小人と、それを追いかけて必死に走っている男を見れば、魔術師だって眉くらいはひそめるだろう。
走る足を一旦緩めて……って、まずい、水銀燈の奴、先に行っちまうじゃないか。
「水銀燈、悪い、ちょっと待っててくれないか?」
「はぁ?」
呼び止めると、水銀燈は「何を言い出すのこのグズは」とでも言いたそうな視線を俺に向けてきた。
「何を言い出すの……」
「いやあのほら、あそこにいる人、俺の知り合いなんだ」
なんか想像していた台詞を本当で言われそうだったので、慌ててバゼットのほうを指し示す。
ううむ、俺もだんだん水銀燈の言いたい事が理解できるようになってきたってことかなぁ。あんまり嬉しくないけど。
「あそこ?」
そこでようやく、水銀燈はその道の先にバゼットの姿があることを認識したらしい。
どうも水銀燈は、自分に関係ない、興味がないことに関しては知覚すらしないようなところがあるなぁ。
「へぇ……」
って、うわっ!?
なんだ、水銀燈の瞳がより一層細められた、様な気がした、けど?
「まぁた、女……貴方ってほんとに女にばっかり顔が広いのねぇ……つまんなぁい」
いや、そんな軽蔑したみたいな顔でそっぽ向かれても。
第一、女ばっかりに顔が広いというのは間違いだ。
「そんなわけあるか、俺はそんなに交友関係が偏ってるわけじゃないぞ。
男友達だって……一成だろ、慎二だろ……………………いや、友達っていうのは数で計るようなもんじゃないだろ、うん」
「……説得力が無いわよぉ、士郎」
うるさいな。
一瞬英霊の男性陣が脳裡をよぎったけど、流石にあの赤いのとか金ぴかとかをカウントするのは俺の沽券に関わりそうなので自粛したんだよ。
「あの、士郎くん?」
「え?」
いかん。水銀燈と話し込んでいたら、いつの間にかバゼットがすぐそこに。
「あ、バゼット、久しぶり。こんなところで会うなんて奇遇だな」
「いえ、奇遇というわけでもないですよ。
これから、士郎くんの家にお邪魔するつもりでしたから」
「俺の家にって……また泊まりに来るのか?」
新しい住居が決まった後も、バゼットはちょくちょくウチにやってきている。
それは、遠坂への報告義務を果たすためだったり、セイバーとの手合わせするためだったり、単なる茶飲み話するためだったりと様々だ。
その都度、一緒に飯を食べたり、時には泊まっていったりするのだが。
899 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/03/21(水) 17:25:08
だが、バゼットの告げた言葉は、そのいずれでもなかった。
「いえ。就職先が決まったことを、ご報告しに行こうかと」
「え」
バゼットの、就職先だって?
言っちゃ悪いが、バゼットの労働は長続きした試しが無い。
なにしろ、喫茶店で働けば、水道管を破壊してクビになるような人なのだ。
だから、魔術協会を辞めてからというもの、バゼットはずっとフリーランス……悪く言えば無職、という状況に甘んじてきたわけだけど。
……そう考えると、俄然と不安になってきた。
バゼット、今度は一体どんなところに就職したっていうんだ?
だが、俺がそれを尋ねる前に、バゼットが機先を制してきた。
「ところで、士郎くんは……なにやら急いでいるように見受けましたが、どこかへお出かけですか?」
「あ、ああ……ちょっとひとっ走り、遠坂の家までな」
「ほう、冬木のセカンドオーナーの家に? それはひょっとして……」
バゼットが先ほどからずっと、不審そうな目でじっくりと見つめている、その先には……当然と言うか何と言うか、水銀燈の姿があるわけで。
……やっぱりそこは突っ込まれるよなぁ。うう、封印指定執行者に睨まれるのって、こういう気分になるんだなぁ。
「そちらにいる人形と、何か関係が?」
「ええっとだな……」
さて、どうしたものか。
俺は、バゼットに――
α:今は忙しいので、俺の家で待っていて欲しいと頼んだ。
β:道中に説明するので、一緒に遠坂邸に来て欲しいと頼んだ。
γ:そんなことより、今度こそ真っ当に働いてくれと頼んだ。
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最終更新:2007年03月21日 20:33