958 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/03/23(金) 01:21:19
決して話をはぐらかそうとしたわけじゃない、のだが。
俺はどうしても尋ねてみたくて仕方なかった。
そう、バゼットの就職先というものを!!
「確かに、今日の用事は水銀燈に関係あるんだけどさ。
そんなことより、俺はバゼットの仕事のほうが気になるぞ」
「え? 私の仕事場、ですか?」
バゼットがきょとん、としている。
こういう切り返しは想定していなかったのか、虚を突かれたらしい。
「ああ。何しろ今までが今までだからな。
今度こそ真っ当に働いてくれよ?
いつぞやみたいに半日持たないなんて事はないようにな」
「なっ、士郎くんまでそんなことを言うのですか!?
確かに今までは、私の過失があったことは認めますが、私だって好きこのんで長続きしなかったわけじゃありません!」
猛然と反論してくるバゼット。
そりゃそうだ、好きこのんで職場荒らしをしていたらそれは立派な営業妨害だ。
と、今まで会話に入ってこられなかった水銀燈が、俺に耳打ちしてきた。
「士郎。いつまでこの女の相手をしているつもりぃ?」
「ああ、悪い。
もうちょっと、もうちょっとだけ待っててくれ……痛っ!?」
ぎゅむ。
こっ、こめかみ付近の髪の毛を思いっきり引っ張られた!
「今は真紅のところに行かなきゃならないのよ?
こんなところで遊んでいる暇は、な・い・の。
本当にわかってるのぉ?」
ぎりぎりと俺の髪を引き絞りながら、恫喝するように囁いてくる。
そ、そういや忘れてたけど、今の水銀燈は実はかなり不機嫌なんだった!
「わ、わかってる、わかってます!
だからあとちょっとだけ、もうすぐに話も終わるから……っ!」
「ふん……あと2分だけ待ってあげるわ。それ以上もたもたしているようなら……」
それ以上のことは言わずに、じっと俺を見つめて確認する水銀燈。
もちろん俺は首を縦に振って了解の意思を示すしかない。
それでようやく満足したのか、水銀燈は近くに立っていたカーブミラーの上に飛んでいった。やれやれ……。
そんな俺たちのやり取りを、バゼットは興味深そうに……そして若干、疑わしそうに見ていた。
カーブミラーに片手を添えて、もう片方を口元に当てて何かを考えるポーズを取る。
「……やはり、士郎くんはアイツとどこか似ている。
言動だけではなく、そんなおかしな共通点まで……」
「ん? なんか言ったか、バゼット」
「あ、いえ……士郎くんに言われたようなことを、別の人物からも言われていまして」
「なんだ、他の奴にもなんか言われてたのか?」
俺以外にもバゼットにそんなことを言う人間がいたとは。
ひょっとしてあの毒シスターだろうか、あいつなら確かに言いそうだけど。
959 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/03/23(金) 01:22:32
「ええ、人が失業するたびに、やれ求職テロリストだの、フロアクラッシャーだの……。
今回も『せいぜい頑張れよバゼット、俺も頑張って人間凶器より上の称号を考えておくからさ、ヒヒヒヒ』などと……!!」
あれ? バゼットの話を聞く限り、相手はどうやら毒シスターじゃないらしい。
あいつならもっと懇切丁寧な言い回しで人を逆撫でするし。
じゃあ一体誰だろう……って、おい。
「ちょ、バゼットストップ!
手、手に力込めすぎ!!」
「きゃああっ!?」
ミチミチミチ、という音を立てて曲がっていくカーブミラー。その上にいた水銀燈ごと、角度を水平に近づけていく。
ヤバイ。
何がヤバイって、バゼットをからかった奴がそのカーブミラーと同じ末路を辿ったかもしれないという事実が。
「あ、す、すみません」
慌ててカーブミラーを立て直す。
が、一度曲がった鉄の棒は曲げなおしたところで元に戻るはずもない。
「あ……また、やってしまいました」
「また、って……日常的にやってるわけぇ?
とんでもない女ねぇ」
俺の肩にとまった水銀燈の呆れ声も、今回は確かに的を得ていた。
「そうだな……新しい職場で生かせればいいんだけどな、その力」
「そ、それならば大丈夫ですっ。
意外と腕力の要る仕事のようですし、私にぴったりだと、先方も言っていましたから」
勇気あるなぁ採用担当者。
この腕力をどうやって利用する気なのか。
「……で、結局なんなのさ、バゼットの新しい仕事って」
「はい、アルコール販売業です。時間帯によってはバーも開いているらしいですが」
ほうほう、酒屋さん兼居酒屋さんということか……いやちょっと待て。
なんだかひどくどこかで聞いたような業種じゃないか?
「あのさ。そのお店の名前って……」
恐る恐る聞いてみると、バゼットはあっさりと口を割った。
「ええ、コペンハーゲン、と」
「あ、やっぱり」
なんだかもはや驚きもしねえよ、もう。
てことは、勇気ある採用担当者は間違いなく親父さんなんだろうな。
「あれ、士郎くん知ってるんですか?」
「知ってるも何も、俺のバイト先だよ、そこ」
「なんと。凄い偶然ですね」
どうだろ、凄い偶然で片付けちゃっていいのかな、それ。
「しかし、急な話だな。
新しい店員を雇うなんて、初めて聞いたぞ、俺」
「今回も、新規採用者を私を含めて二人も雇い入れたわけですし」
「え、まだ他にもいるの、新しい店員さん……?」
なんか、色々新しい情報が入ってきて混乱してきたなぁ……。
α:コペンハーゲンの新しい店員が気になる。
β:バゼットをからかったという人物が気になる。
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最終更新:2007年03月23日 06:19