528 名前: 371 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/08/11(金) 09:47:04
「水銀燈……って言ったか。その指輪に誓えば、許してくれるんだな?」
「ええ、そうよぉ。私にとっては不本意なんだけどぉ、下僕になるのなら許してあげるぅ」
「そうか……」
悩むことは無い。
そもそもは俺に非がある。
ただの人形ならばどれだけ好きに触ろうと問題なかっただろうが、
その人形が意志を持っていて動くことが出来るというのなら、話は別だ。
知らなかったこととは言え、本人が動けないのをいいことに好き放題やってしまったのは完全に俺が悪い。
それを考えれば、彼女……水銀燈の言葉に従っても構わないのかもしれない。
俺は、ゆっくりと顔を上げて――
「――駄目だ。その命令は、聞けない」
はっきりと、その提案を拒んでいた。
「……なんですってぇ?」
水銀燈の顔が、見る見るうちに不快の色に染まる。
ほんの少し罪悪感を受けながら、俺は土下座していた身体を立ち上がらせる。
「俺のほうに非があるのなら、お前のいうことを聞いてやるのも構わない。
それこそ、大概のことは聞いてやる。
けど、訳のわからないまま下僕になるなんて、俺には出来ない」
「……ふぅん、そう。つまらないプライドで死を選ぶと言うわけぇ?」
突き出した左手を頭上にかざし、再び翼を広げる水銀燈。
この距離では恐らく、瞬きする間に俺は黒い羽根の嵐に埋もれてしまうだろう。
それでも俺は、水銀灯を見据えたまま言葉を続けた。
「プライドとか、そんな格好いい理由じゃない。
俺がお前の下僕になれない理由はな、水銀燈。
もっと単純で、どうってことのない理由なんだ」
それは衛宮士郎にとって、もっとも重要な瑣末事。
「このままお前の下僕になってしまえば、正義の味方になれないだろうから」
529 名前: 371 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/08/11(金) 09:48:07
それが理由。
そんな子供でも口にしないような理由で、俺は一つの道を拒んだ。
「はぁ? なぁに、それ。意味が判らないわぁ」
「うん、つまり……俺はね、正義の味方になりたいんだ」
どこかで困っている人が居たら、その人を助けてあげたい。
不幸な人が居たら、幸せになって欲しい。
そういうことが出来るような、正義の味方になりたいと。
「そのためには、お前の下僕になるわけにはいかないんだ」
だから、お前の命令は聞けない。
「…………あなたイカレてるわぁ」
心底呆れたように、水銀燈がポツリと言った。
イカレてる、か。
多分その通りなのだろう。
この年で正義の味方を口にすれば、そう言われて当然だ。
だから。
「そうかもな。でも、イカレた奴にだって、憧れたものはあるんだよ」
「…………憧れた、もの?」
――そのとき。
水銀燈の目が、弾かれたように見開かれたように見えた。
「ねぇ。あなたは、自分が――」
水銀燈が口を開きかけた、その時。
「――シロウ? こちらにいるのですか?」
「えっ!?」
この声は……セイバーか!?
土蔵の外からこちらに向かって近づいてくる足音。
扉は閉めてあるので姿は見えないが、間違いない……我が家の騎士王がやってくる!
「せ、セイバー? どうしたんだ?」
「いえ、シロウこそ、一体何をしているのですか?
庭の様子を見る限り、掃除の途中と見受けましたが……」
そういえば集めた落葉はそのままだし、箒は玄関に立てかけたままだったような。
確かに不審がられても仕方なかったかもしれない。
セイバーはすぐそこまで来ているようだ。
時間が無い。
俺は――
α:自分が土蔵の外に出て応対する。
β:ひとまず水銀燈を窓から逃がす。
γ:ここは敢えて二人を引き合わせてみる。
δ:水銀燈をトランクの中に「そぉい!!」
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最終更新:2006年09月03日 17:40