711 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/11/08(水) 04:37:41
テトリスのように湯船の真ん中に入る事にする。
幸い、体積的に入ることは不可能ではなさそうだ。
……ただし、なんというか、その、身体を押しつけ合う事になりそうではある。
湯船の真ん中というのはどうかと考えるが、当然下には足があるだろう、踏みそうなのでうまく回避しなければならない。
まして三人ともかなりぐったりしている。
踏んでしまったらそれはもう大変なことになるだろう。
そーっと足を入る。
足同士が触れているのが分かるが、問題なく湯船に身体を沈め……られなかった。
沈めようとした尻の下に誰かの足がある。
それはそうか、ぶつからないように出来るだけ互い違いにするだろうし。
……だとすると。
遠坂の方を向く。
隣にはイリヤが眠りそうな表情で浸かっている。
だとすれば残りは。
「あー、氷室、すまん」
氷室の隣に入ることだ。
腰は下ろしたが足は体育座りのように曲げたままだ。
多少窮屈だが仕方がない。
「ん……私は、構わん……」
本当にぐったりとしているのだろう、反応が妙に鈍い。
無言のまま数分が過ぎる。
「衛宮……少し頼みがある」
「ど、どうした?」
氷室が身体を押しつけて話しかける。
普段ならば絶対にあり得ない場面で思わず慌ててしまう。
「身体は温まったのだが、どうにもだるくてな……余り動けないと言うことだ」
話が見えてこない。
「それでな……背中だけでも洗って貰えると嬉しいのだが」
え?
「そ、それなら遠坂とかにやって貰った方がいいんじゃ」
「いや、遠坂嬢も同じような状態のようだし……まともに動けるのは衛宮だけのようだし……頼めるのは君くらいと言うことだ」
言葉もうまく発せないのか、氷室の口調は普段から少しだけ変わっていた。
そして普段の彼女ならばこういった考え方はしないのだと分かる、つまり余程大変な状態なのだろうと察するに余りある。
「しかし……なんでこんなに怠いのかな……」
「ふむ……少しやりすぎましたか」
他者封印・鮮血神殿、風呂場という無防備な極小空間で、彼女の宝具を発動させて吸収した。
勿論痕跡を残すような事はしない。
その辺りのことを彼女は分かっている。
彼女が今回吸い取ったのは精気や性欲の類だ。
それを一時的に思い切り露出させ、その部分を一気に吸い上げた。
しかし魔力の強い人間<<遠坂>>も居たため思わず吸い上げ過ぎてしまった、ここは反省するべき所だと自戒する。
「しかしシロウ、思ったよりも……ふふふ」
喉の奥に士郎の血を残したまま思わず笑みを浮かべる。
「あら? ライダー、どうしたの?」
「いえ、なんでもありません、それよりもサクラ、少しお話があるのですが……」
「ん? なに?」
「いえ、大したことではないのですが……部屋に行きましょう」
「あ、それじゃお茶とか用意するね、ライダーは部屋で待ってて」
風呂場の状況を、桜は気付かなかった。
「そ、それじゃあ、洗うぞ」
「ん……頼む」
氷室はそれだけ言うと、無言で前を洗い出す。
それと同時に、士郎も氷室の背中を洗い始める。
スポンジ越しではあったが、女性特有の柔らかさと同時に筋肉の張りの強さを感じる、しなやかな背中だった。
「……凄いんだな、氷室」
「どうした? 藪から棒に……」
「いや、無駄なく鍛えられてるなぁって思ってさ」
スポンジの泡で背中を泡だらけにしながら、背中越しの腹筋を感じ取る。
背中を指先で軽く突いてみれば、それ以上の強さで押し返すような、内包する強さを感じ取る。
「それなら蒔の身体を洗うと良いぞ、あれは私よりも鍛えて居るぞ」
もっとも、断られるとは思うが、と続ける。
「……ま、機会があったらな」
そんなことは多分無いと思うけど、と続ける。
「しかし、まるで同性と会話しているような気分だ、安心する」
「……それは褒めてるのか貶してるのかちょっと判断できないな」
「褒めている、私は男性として衛宮を意識しているからな」
途端に恥ずかしさが復活する。
背中に直接触れても感じなかったのに、その一言で復活してしまったようだ。
恥ずかしさに追われ、慌てて背中を洗う。
「……終わったぞ、氷室」
背中にお湯を掛ける。
頭からもと頼まれたので頭からも掛けた。
「ん、さっぱりした、ありがとう、衛宮」
気付けば、氷室は自力で動けるようになっていた。
最終更新:2007年05月21日 01:40