927 名前: 隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日: 2006/11/14(火) 04:32:10
『御名答』
セイバーとバゼット、二人は紛れもなく一級の武芸者である。
その二人に気付かれずに、声を掛けた。
平時であれば、そしてどちらか片方であれば、それも有り得た事かもしれない。
だが二人は戦時の心を持ってそこにいた。
にもかかわらず、二人はその存在に気付かず、振り向いた。
振り向いた先には。
「誰だか知らないが、留守中に俺の根城に入ってくるなんて、随分な人達だね」
そんなことを呟く男と、男に寄り添うように付き従う少女が立っていた。
「……何者ですか?」
セイバーがバゼットに目配せし、身構える。
「俺かい? 君達のルールに従うならば、『セイバーのサーヴァント』と名乗るのが正しいのかな?」
そう言って、笑顔でサングラスの位置を直す。
夜だというのに、外す素振りはない。
「そして彼女は霧島さん、この家の住人でね、寂しいって事で、俺が街中を連れ回してるのさ」
口元に笑みを浮かべる。
彼女の目に意志はない。
強烈な魔術によって、完全に支配下に置かれている事は明らかだった。
サーヴァントによるマスターの支配。
本来の主従を入れ替える、通常の主従ならば最も忌まれる行為である。
「彼女は人生に悩んでいてね、俺が悩みを解消してあげたのさ」
「それがこの有様ですか、随分と――ふざけた物ですね」
穏やかな声の中、怒気を漲らせて敵を睨み付けた。
同時刻・衛宮邸
――ごめん、セイバー、敵の反応があったらしいわ、そっちは何とかして貰うしかないかもしれない
――そうですか、ではなんとかしてみます、凛さん、そちらは任せましたよ
――ええ、気をつけて
念話を終え、続いてジェネラルからの話を促す。
「敵は2方向から接近、バーサーカーらしいのが単独行動、もう一つは……群体らしい」
「群体……それは例えばゴーレムとか竜牙兵とか、そう言った代物でしょうか?」
桜が問う。
「いや、統率された黒い全身鎧<<フルアーマー>>の集団らしいと言うことだ、数は不明ながら数百以上、ほぼ真っ直ぐこちらを目指して
いる」
「全身鎧の集団?」
彼女は、十字軍時代の神殿騎士団<<テンプルナイツ>>にそう言った騎兵部隊がある事をかつての書物で読んだ事があった。
その集団は異教徒を鏖殺し、街を焼き、尽くを略奪したという、歴史の表には決して出ない教会の暗部。
だがそれは予想の域を出ない。
だからルヴィアは、その予想を口にはしなかった。
「それからバーサーカーだが、既知のバーサーカーではないようだ、近づいた斥候が何人かやられている、厄介な相手だ」
「……教会の時と言い、貴方の召喚時と言い、バーサーカーは三騎目ね……」
「そのようだな、だが幸いな事に、接近こそされているが、目的地はここではないようだ、恐らく別のマスターがこの街に潜伏している
のだろう」
「そう、それが予測できただけでも僥倖ね……外見はわかる?」
「ああ、黒装束に、全身包帯、白と黒のコントラストと言うことらしい」
ふぅん、と何気なく流す遠坂。
だがその言葉に、キャスターの表情が変わった。
「……ウツロ!?」
彼女はその存在を知っている。
「キャスター、そのバーサーカーを知っているの?」
遠坂は、昼間と違い彼女のことをキャスターと呼んだ。
「私が思い浮かんだ通りの相手なら知っているわ、アイツは快楽殺人鬼よ……そして、間違いなく私と似た宝具を持っている」
苦虫をまとめて噛み潰したような表情で言った。
「キャスター、正直に答えて、一人で勝てる相手?」
「……上手く行って五分、出来れば単独で戦うことは避けたい相手……だけど」
「そう……」
皆まで言わせず、話を遮る。
彼女の言いたいことは分かる。
戦いたくはない、だが、ウツロと呼ばれるバーサーカーの行動は止めねばならないと言うことは言われずとも理解する。
遠坂凛は決断を下さねばならない。
生前から快楽殺人鬼などという存在<<バーサーカー>>を、冬木の管理者として許容することは出来ない。
だが、こちらの存在を知って居るであろう鎧の集団への備えを怠ることは出来ない。
そして可能ならば、セイバーへの救援も行いたい。
だが、バゼットとセイバーの組み合わせは用意しうる『人間とサーヴァント』の組み合わせとして最強である以上、
あちらに現状以上の戦力を割くことは難しい。
だが万一にも二人が敗北すれば、それは衛宮邸で防御に徹することすら難しくなるだろう。
彼女が下した決断は――
最終更新:2007年05月21日 01:49