56 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日:2006/11/19(日) 03:31:48
23:55・霧島家
「キャスター!」
「……バゼットさん達を連れて逃げて!」
緑の布が一瞬だけ光り、存在を消失させる概念を撃ち出す。
「おいおい、忘れたわけじゃないんだろ? この空間の特性を」
男の持つ白い刃が発光し、同じく概念を撃ち出す。
あの男は、こっちのことなんか見ても居ない。
当然だ、衛宮士郎はサーヴァント<<英霊>>なんかじゃない。
ただ魔術が使えると言うだけの人間に過ぎない。
まして、先生やバゼットのように、肉体に概念を付加できるわけでもない。
瀑布の如く叩き付けあう『存在消失<<お前は存在しない>>』という概念。
ただの少女であったはずのキャスターが、あの化け物のような悪意と打ち合っている。
だがそこまで、キャスターではあのセイバーに打ち勝つことは出来ない。
もとよりあの剣は断頭の刃、殺すための武装だ。
そしてキャスターのあの布、聖人の死体を包み込んだ聖骸布。
殺すための武装と、死後を包んだ布では、概念を生み出す大本に差が在りすぎる。
故に単独で勝利することは出来ない。
それでも、あの化け物<<悪意>>を相手に打ち合っている。
逃げろと言ってくれている。
だが、逃げるわけにはいかない。
――衛宮士郎は、まだ出来ること全てをやったわけじゃない。
衛宮士郎に出来ること、即ち、『作り出す』事。
最強の模造品を作り出せ。
己の生、その遙かな先にある剣の丘から、こぼれ落ちず、狂いも妥協も、何一つ違わぬ、
己を、相手を、世界をも騙しうる最強の模造品を『引きずり出せ』
やることなど、考えるまでもない。
そう、ならば考えるべきは『何を』引き出すか。
――即ち、今現在の衛宮士郎が持つ最強の概念とは何か。
その全ては知覚しうるほど遅くなく、神速の域。
想像理念鑑定――完了
基本骨子想定――完了
構成材質複製――完了
制作技術模倣――完了
成長経験共感――完了
蓄積年月再現――完了
所有概念再現――完了
全ての行程は同時に行われ――
「投影、完了――!」
ここに幻想は現実となる。
幻想が為した物。
『勝利を約束する』光る剣ではない。
『対となって手元へ戻る』一対の双剣ではない。
衛宮士郎の幻想は槍を為していた。
そう、空間内に撒き散らされる『お前は存在しない』という概念に勝利するには、
それ<<存在しないという概念>>よりも早く『結果を決めねば』ならない。
かつて己を殺した槍。
青い槍兵の持っていた赤い槍。
即ちその概念は『放てば因果を逆転し心臓を貫く』
その名『刺し穿つ死棘の槍<<ゲイボルグ>>』
放つその瞬間、既にその結果は決まっている代物。
投影の影響か、頭痛に襲われる。
「ッ……離れろ! キャスター!」
頭痛を誤魔化すように叫ぶ。
迷いの無い投擲。
その概念に気付いたのか、一瞬だけ注意をこちらに向ける。
だが遅い。
既に投擲は為った。
あとは突き刺さるのみ――!
「く……おおおっ!」
直撃を受け、セイバーの身体が吹き飛び、地面に転がる。
「大丈夫か? ……キャスター」
「私は、大丈夫……だけど、頭……血が」
「あ……ああ、気にすることはないさ、いつものことだし……」
概念のみの空間でも、出血はするらしい。
否、出血は概念のみのこの空間だから故か。
そう、投影は確実に己を蝕む代物だ。
投影の影響で『脳が弾け飛ぶ』などというという概念を己の肉体に付加されなかっただけでも僥倖とするべきなのだろう。
そんなことを考えていると。
最終更新:2007年05月21日 01:53