82 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日:2006/11/21(火) 04:41:35

「なるほどね……利用しがいのあるナカマじゃないか」
そう言って立ち上がった。

「な……」
立ち上がったことは驚くべき事ではない。
男は英霊、衛宮士郎は人間。
さらにあの槍の投影は初。
想像理念に乱れがあったかもしれない。
想定された基本骨子にズレがあったのかもしれない。
複製すべき構成材質の選択にミスがあったかもしれない。
模倣すべき制作技術を模倣しきれなかったのかもしれない。
その槍が成長、経験していく出来事への共感が出来なかったのかもしれない。
その槍が蓄積していく年月の再現に失敗があったかもしれない。
即ち、あの槍が所有する概念に至ることなく、この空間内で力を発揮できなかったのかもしれない。
もしかしたら、この空間に於いては心臓が破壊されることと死ぬことがイコールではないのかもしれない。
考えられる理由は、それこそ無数にある。

驚くべきは、その姿である。
心臓に槍が突き刺さっていることは明らかだ。
そんな状況で、委細構わずと、否、まるでその槍が存在しないかのように立ち上がったことだ。
例え概念の世界でも、己に何の影響が無かろうと、己の身体にナニカが突き刺さったままで良しとする人間など普通ではない。

だが、そんな事すら、衛宮士郎にはどうでも良い。
ただ、男の言葉が気になった。
「利用しがいがある……だと?」
「そうさ、君は、君達は、お互いが実に利用しがいがあるナカマさ、それは誇って良いことだと思うぜ?」
「俺は……誰かを利用しようなんて考えていない」
頭痛が襲う、投影の影響じゃない、在り方の揺らぎによる物だ。
衛宮士郎の在り方が、余りにも単純な言葉に揺れていた。
「そうかな? この『聖杯戦争のシステム』それ自体が、利用する者と利用されるもの、世界の姿そのままなんじゃあないか?」
その言葉は一面の事実であったが、
「ヤツの言葉なんて聞く必要ないわ」
そう言ったのはキャスターだった。
「『裏切り者』のアンタなんかと話し合う必要なんて無い、そうでしょ」
「やれやれ、嫌われたモンだなぁ、君はどうかな? そうだ、名前を聞いていなかったね、俺は『J.B.』と呼んでくれ、君は?」
名乗られれば名乗り返す。
それは最早習性に近い。
だが、それは必ずしも融和を意味する物ではない。
「……俺は衛宮士郎、アンタが何者か知らないが、お前と分かり合うことはない、そう思う」
油断せず身構え、返答する。
それは衛宮士郎の確信だ。
衛宮士郎は正義の味方を目指した者。
だが、J.B.は世界を『利用する者とされるもの』と評した。
その一時だけで、決して分かり合えることはないと確信した。
「ふうん、そうかい、残念だなあ」
その笑みを隠そうともせず、J.B.は言った。

「セイッ!」
ディゾナントのコアに向け、バゼット渾身のアッパーが炸裂する。
更に刻まれた<<イサ>>のルーンに込められた氷槍の一撃がコアを爆砕し、宝石へと還元した。
「掌ッ!」
セイバーの拳がディゾナントの全身に電撃を走らせる。
それがディゾナントの概念すらも停止に至らせ、宝石へと還元する。
二人は、概念のみの世界にあって尚、戦術を覚え、戦いを続け、ついには殲滅に成功するだろう。

ディゾナントが消え去ったのは、J.B.が「残念だ」と呟いた直後だ。
「やれやれ、あっちのも強いなあ……興味が湧いたね」
そう言うと、姿が歪み始める。
「それじゃあ失礼」
「ッ……!」
キャスターが消失の概念を叩き付け、それは空振りに終わった。


かくて戦闘は終わりに向かう、舞台は――


黒の軍団:衛宮邸へと戻る
狂戦士と槍兵:深山町南部、とある廃屋へと移る
剣士と暗殺者:S市杜王町、ぶどうが丘高校へ移る
剣士と僧正:S市杜王町、教会へと移る

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最終更新:2007年05月21日 01:54