418 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日:2006/12/01(金) 04:26:01
4発のAIM-7<<スパロー>>がホーネットから放たれる。
僅か数キロの至近距離、マッハ4を誇るミサイルとはいえ、敵対する部隊の技量は並ではない。
唯の一機も被弾せず回避し、逆に分散から集合までの過程を利用して先頭の一機――隊長機への集中攻撃を狙う。
だが、それは誘い。
「かかった……!」
隊長機、グリューン1が急降下し加速、それを合図に後方の3機――同隊の2から4――が三方向から最左翼のA-6<<スカイホーク>>に狙いを定め、襲いかかった。
その戦場の誰一人として知らぬ事であるが、その軌道は――
円を描く三つの刃。
防ぐことも回避することもできぬ一撃。
かの魔剣『燕返し』そのものの動きであった。
「撃墜確認!」
次の標的、F-4<<ファントム>>の位置を確認し、それに向けた軌道を取る。
その瞬間、後方のグリューン3が撃墜された。
「ッ!」
被弾はエンジン部に集中し、炎を上げて錐揉み回転を始める。
その直後、吹き上がる炎と共にベイルアウトする。
初撃のフェニックスによる長距離攻撃、それをハイGループで回避した一機がそのまま地面ギリギリまで降下し、加速しつつ上昇。
『フクロウの目』からも消え去るその軌道を行った機体が猛禽類の鋭さでさらに残存機へと襲いかかる。
「グッ……F-20<<タイガーシャーク>>かよ!」
作戦を変更、狙いを『炎の鬣を持つユニコーン』をマークしたタイガーシャークに定め直した。
「ハチが撃墜してやるぜ、馬野郎め!」
二機のF-14が互いを睨み付けたまま失速する。
互いに限界寸前までのシザース運動で互いの背後を狙い続け、ついには失速を始めたのだ。
だが、互いに相手を逃がすつもりはない。
失速で高度が下がるのも構わず、今度はABを発動で旋回加速によるハイG旋回で勝負を掛けていく。
『やりやがる……アイツ以外にこれほどのヤツが居たとはな!』
互いに言葉に出さぬまま、敵の腕を称える。
「だが、アイツほどじゃない!」
互いに叫び、さらに旋回していく。
ギシリと、互いの羽が限界を訴えていく。
帰還できるだけの燃料の事など、互いの頭から消えていた。
419 名前:
隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日:2006/12/01(金) 04:26:51
士郎とセイバーは市街地へ向かった。
撃墜された機体の一つが落下した方角だ。
一方でなのはとフェイトは杜王町北部、ぶどうが丘高校方面へ墜落した機体の探索へ向かうこととなった。
既に時刻深夜とはいえ、街は完全に眠っては居ない。
恐らく何人もが上空の空戦に気付いているだろう。
多くの人が唯の暴走族の騒音だと勘違いしてくれるのを願うばかりだが、そう言ったことを期待してばかりは居られない。
ならばと、目撃されても不審に思われにくい二人が市街地へ向かうことにした。
「……一機はあそこのようですね」
セイバーが指さす距離にして数キロ先、煙突のように最上部から煙を吐くビルの姿が見えた。
幸か不幸か、市街地で撃墜された機体の一つはビルの屋上に落下したようだ。
「よかった、あんな場所ならそう被害はない、よな?」
「ええ、恐らく」
「ただ、もう一機あったはず……先生、分かりますか?」
「いえ……煙などは見えませんからここからではなんとも。しかし、市街地に落ちたのは間違いないでしょう、一機は錐揉みで落ちましたからコントロールする余裕もなかったでしょうし」
「よし、それじゃあ駅前の方に行きましょう、確かあの辺りには高層ビルがあったはずだから、どこか探せるはずだ」
二人を郊外へ向かわせたのは失敗だったかもしれないと思いつつ、現在できる最善を目指す。
「そうですね、行きましょう」
周囲を警戒しつつ走り出す。
どうやらこの辺りは人は居ないらしい。
幸運ではあるが、どこか不気味な印象を覚えた。
S市南部から駅近郊まで走る。
士郎の息は切れ始めるがセイバーは呼吸すら乱さない。
「……ん?」
だがそれでも聴覚は正常に、否、通常以上に働いているらしい。
何かの音を感じ取って走りを止める。
「士郎君、どうしました?」
「いや、何か物音が聞こえて……」
ビルの影、死角となっているそこに足を踏み入れる。
「うっ……」
そこにあったのは死体。
「これは……」
ある者は切り刻まれ、ある者は壁面で潰されている。
多少のことでは動じないつもりであったが、思わず顔を顰めてしまう。
そして、ついに死者が出てしまった。
その事実を思い、自分の非力を責めた。
生きている人間が居ないか確認していく。
「く……」
五人は全員死んでいた。
挽きつぶされ、切り刻まれ、内臓を引き出され、血を飲み干されては生きている可能性など皆無だった。
膝をつき、触れる。
無惨に刻まれた血は乾いておらず、それどころかまだ暖かかった。
もう少し早くここに来られればと言う、意味のない事を思った。
「士郎君!」
セイバーの声で衛宮士郎としての思考が止まり、全速で後ろに跳ぶ。
「投影――」
投影した莫邪を頭を守るように翳す。
直後、金属音と共に衝撃が走り、地面に着地できずに背中から転がる。
その直後、セイバーが敵へ向けて飛びかかる。
「ほう……これはこれは」
路地の向こうからそんな声が響いた。
「今のでやったと思ったが、手を抜いたのか? ランサー」
そう言ってセイバーの一撃を防いだ存在に声を掛ける。
「いや、そんなことは、宝具こそ使っておりませんが、狙いは頭部、命中すれば倒していたことでしょう」
その姿は鎧武者のようであった。
「ッ! これはお前達がやったのか!」
立ち上がり、叫んだ。
「いいや、違う……そう言って信じてくれるわけでもないだろう?」
半ば諦めたように、赤い大男が溜息を吐く。
「そうですね……死者に弔意を示し、無防備な士郎君を攻撃した……色々と考えられる状況が揃っている、とてもではないですが信じられはしないでしょう」
「ふう……面倒だが、やるしかないかね」
「当然でしょう……」
そう言って、セイバーが構えた。
「無駄に戦うのは主の意に反するが……戦いは望むところ哉」
ランサーと呼ばれた男は槍を構える。
狂戦士降臨:夜の市街地に哄笑が響いた
拳と槍:ランサーが最初の一歩を踏み出した
教会襲撃:一方教会では――
守るべき旗:一方ぶどうが丘では――
最終更新:2007年05月21日 02:02