455 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日:2006/12/02(土) 03:16:21
interlude――
突然だが、英霊とは『誰かに知られ、称えられる』ことで英霊となる。
そして英霊としての『格』は、要すれば『どれほど知られているか』に比例する。
故に歴史上に名を残した存在、あるいは伝承として人々の間に伝わり続ける者は英霊としての格が高い。
だが、この聖杯戦争に於いて一つの『クラス』として規定され召還された存在はクラスとしての縛り、限界点が規定されている。
勿論それは人としての限界を遙かに超えた位置に存在するが、その縛りが存在する以上。
この冗談のような光景も現実であった。
冬木市郊外・森林地帯上空
それは有り得ざる光景だった。
超音速で絡み合う二機。
一機は超音速が可能なSu-37。
もう一機は、Bf-109Gであった。
速度を維持したままのシザースで互いの背後を狙う二機。
通常ならばこのような動きは不可能だ。
だが二機は互いに英霊であり、乗機こそ己を表す宝具<<貴い幻想>>に等しい。
故にこの光景は紛れもない現実。
『黄色の13』を背負うSu-37。
そして『黄色の14』を背負うBf-109G。
両者は惹かれ合うように戦闘に突入し、今に至る。
そこに意味など無いのだろう。
だが、その二機の描く軌跡はどうしようもなく美しかった。
13の不意を突くハイG旋回。
シザース機動と違うその動き、背後を取ったという確信。
そのレシプロに狙いをつける、だがその直後に機体が視界から消える。
その動きがどのような結果をもたらすかは予想できる。
スナップロールの機動を使って敢えて失速し、高速で立て直したのだ。
その結果14はオーバーシュート、無防備な背後を晒した。
攻撃を己の意志から消し、同時に急上昇旋回。
その背後から数発の弾丸が宙へと消えていく様が見える。
被弾しないという確信の元、勢いに任せた四角を描くヘジテーションループ。
極小の径で完璧に決まったそれは、13の背中を完璧に捉える。
先程の回避を念頭に入れ、僅かに下方向へ逸らしながら機関砲を連射する。
だが、行われたのは失速からの回避ではない。
下へと機首を向けつつあったSu-37の目前で、Bf-109Gがその上面を完全に晒した。
「……ブカチョフ・コブラ!」
レシプロ機では絶対に有り得ぬ動き。
機体全てをエアブレーキとして減速する、つまりは進行方向へ腹を見せて飛行するという、下手に行えばただ蜂の巣にされるだけの高仰角スタント、それをBf-109はやってのけ、見事にオーバーシュートさせた。
思わぬ動きで一瞬思考が止まる、そしてその間に14は機体を水平に戻し、そこで信じられぬ物を見た。
13の機体がこちらを向いている。
思考が止まり、その瞬間に選ばれた物は、コブラの発展技。
機首を真上に傾け、同時に急減速。
さらにそのまま、Su-37特有の推力変更ノズルを用いて一回転する。
回転の間も機体は全身を続ける『クルビット』
本来一回転するその回転を途中で止め、無防備な背面を晒すことなく、上下逆だが正面で向き合う。
こうなれば、残るは互いに乱射のみ。
両者の機体が火を噴く。
Bf-109からパイロットが飛び出す。
そしてSu-37はその異様なまでの復帰力で水平飛行へ復帰し、そこで限界を迎える。
舌打ち一つ。
機首を下へ、森へと落ちるように調整し、イジェクションレバーを引き、ベイルアウトする。
僅かに見えた互いの顔は、『またやろうぜ』と語っていた。
――interlude out
459 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日:2006/12/02(土) 04:56:02
神父は途方もなく忙しかった。
死者が出ることは別段驚くことでもなかった。
事実既に死者は出てしまっていたし、それは問題なく隠匿できたからだ。
問題は、空戦である。
召還されたジェネラルも本格的に戦闘を開始し、老境に入った今現在においてもこんな状況の隠匿などできるかと叫び、職務を放棄したくもなっていた。
一応街全体に用意しておいた視線逸らしの魔術は発動させたが上空から響く爆音と墜落した機体で最早隠匿不可能な状態に陥っている。
「ああ、そうだ、夜遅くだろうが何だろうか、隠匿が最優先だ」
電話の相手は業者、聖杯戦争の後始末を担当する工事業者だ。
どこまで隠匿できるか怪しい物だが、できうることはやっておかねばならない。
「ああ、すまないな、よろしく頼む」
電話を切る。
他にもやることは山積している。
「ブラック、そっちはどうだ?」
「墜落の衝撃で気絶していた人はとりあえず礼拝堂に寝かせてあります、何人かは危険な状態です」
負傷者の手当だ。
三人では文殊の知恵にはなろうとも、街全ての負傷者を収容したり手当するようなことはできない。
必然、回収可能なのは教会周辺だけとなるが、記憶の操作も施せるのは彼しか居ない以上過重労働も良いところである。
礼拝堂のドアが開く音がする。
「……ブラック、手当を頼む」
「はい」
早足で礼拝堂へ向かう。
「夜分遅くすいません、神父、状況を説明していただけますか?」
遠坂とキャスターが教会に到着する。
「……説明の必要とその時間があると思うかね?」
礼拝堂の長椅子に寝かされた数人の症状を見る。
何人かは鼓膜が破れているようだが、直接的なダメージはそれほどなさそうだ、記憶の操作さえ上手く行けば問題なく今後の生活を送ることができるだろう。
「簡単に言えば聖杯戦争が始まったと言うことだよ、陸だけでなく空でも海でもな」
記憶操作の魔術の準備を整える。
視線を向けることすらしない。
「ジェネラル……ですか」
「ああ、それも陸だけでなく空を主体とする将軍だろうな、陸戦は行われているようだが、戦闘半径は現在の所大きくない、完全に隠匿が可能だろう」
遠坂が今後の行動について少しだけ考え込む。
「……考えてる暇があったら奥で負傷者の手当を手伝ってやってくれんかね? 私とブラック、それにジョンだけではな、はっきり言って手が足りない、負傷者も多いし、それどころか収容もできていない人が多くいるだろう」
460 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日:2006/12/02(土) 04:56:51
『……誰だ?』
話の途中、教会の外から声が聞こえ、振り返る。
振り返ったキャスターの瞳に、懐中電灯の光が女性を照らすのが見えた。
「ふふ……私、シャルロット・ジャルディノと申しますの」
「……五体満足に見えるが、神に助けでも請うのかね?」
そう言ったのはジョンと呼ばれた神父だ。
まるで気付かなかったが、教会の近くを巡回していたらしい。
気付けば遠坂の隣に立っていた。
「いいえ、私の目的は教会を襲うことですもの」
殺意が僅かに閃く。
それと同時に、彼女の背後から男が姿を現す。
「……サーヴァント」
「物わかりが良くて大変結構……私の『セイバー』は最強でして、敗北するマスターやサーヴァントを受け入れられては困りますの……それに、丁度良い機会ですし」
底冷えするような笑顔。
サディスティックな貴族の笑みであった。
「勿論、貴方達も消してしまった方が憂いがない……でしょう?」
「ッ!」
その言葉に怒りを覚えたのか、キャスターがその宝具を――
発動する前に吹き飛ばされる。
「あら、サーヴァントかと思いましたのに……ただの人だったようですわね」
吹き飛ばされ、数メートル吹き飛ばされ床に転がり、キャスターが苦悶の表情を浮かべる。
戦うことなど出来はしない。
サーヴァントはサーヴァントでしか倒せない。
遠坂凛はその鉄則を熟知している。
マスターとの直接対決だけならば彼女にも勝機はあるだろう。
だが、その背後には『セイバー』を名乗る黒いスーツ姿の男が立っている。
射竦めるような視線は、例え街中であろうと決して正対したくない雰囲気を放っている。
緊張で喉の奥が乾いている。
「用件はそれだけです、ご理解いただけまして?」
その言葉を合図に、セイバーが剣を取り出す。
西洋刀、レイピアの一種、彼女に分かったのは唯それだけ。
「それじゃあ、殺しなさい、セイバー!」
爆音が響き、それよりも早く姿が掻き消える。
音速さえも凌駕したその踏み込み。
それは間違いなく教会の入り口にいた遠坂凛を狙っていた。
走馬燈のような思考速度で、音速で迫るセイバーを視界に捉えていた。
音速で迫るその剣の結果は言うまでもない、そこにあるのは斬られたという事実のみ。
目を閉じるよりも早く、レイピアが突き出され――
その一撃は逸らされていた。
突き出されたレイピア、それを挟み込むように逸らした二丁拳銃。
いつ拳銃を抜いたのか、音速を超えた一撃をも逸らしたその存在に、シャルロット、そして凛の表情が驚愕に変わる。
そして、セイバーと呼ばれた存在は、敵の存在をきちりと認め、後ろに下がる。
「貴方……何者――!」
シャルロットの叫びが木霊する。
その声に応えた声は、余りにも静かだった。
番えるように二丁拳銃を構え、宣言する。
「グラマトン・クラリック……ジョン・プレストン」
最終更新:2007年05月21日 02:03