613 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM 投稿日:2006/12/11(月) 04:24:20
踏み出された巨大な身体。
……体格の差から考えて真っ向勝負を行うことは難しいだろう。
仮に行えたとしても消耗は激しく、大魔砲での攻撃はしにくいままとなるだろう。
ならば足を止める事……足を止めて時間を稼ぎ、再度砲撃して撃破する。
そう決心し、初撃と同時に右足を踏み出す。
数メートルの距離から繰り出される左の鎖剣を展開された刃で跳ね返し、その方向に合わせて死角へ回り込むように走る。
だが死角へは回り込めない。
戻り始める鎖剣の間を縫うように右の鎖剣が繰り出される。
だがさらにその一撃を弾き、同時に首を狙う。
この一撃を無理に受ければ隙ができる。
二人は同時にそう判断し、その攻撃は空を切る。
「身軽な……!」
鮮やかなバックステップ。
続けて繰り出そうとした一撃は開いた間合いに阻まれる。
そしてそう判断するまで僅かな隙の合間に再び鎖剣が閃く。
「くっ……」
近接用のバルディッシュと左右の鎖剣。
直接ぶつかり合えば威力は僅かにハーケンモードのバルディッシュが上であろう。
だが筋力を含めた多くの身体能力、そしてそこから生まれる鎖剣の戦術性の高さはそれを補い、それどころか凌駕するだろう。
「でも……負けない!」
フェイトの視線の先はセイバーの後方。
一つだけ残しておいたディバインスフィア。
そこから一発だけ撃ち出される光弾。
狙うのは頭部。
ダメージではなく視界を奪うことにある。
フェイトが踏み出し、一気に接近する。
「ぬっ!」
後方から撃ち出された光弾を直撃されて視界が消える。
振り上げられた両手の鎖剣が振り下ろされ、轟音と衝撃波が発生する。
「くっ……」
サイドステップで回避し、僅かに体勢を崩しながらも更に接近する。
「はああっ!」
狙うのは足。
大振りの一撃は、右足の大腿筋を切断した。
『……よし!』
フェイトの心に発生した僅かな達成感、心の緩み。
足の筋肉を切断されたセイバーの口元が歪む。
「……捕らえたぞ」
フェイトが気付いたとき、その足には鎖が絡みついていた。
影ごと吹き飛ばされたコスタスが地面に倒れている。
激しく咳き込み、それでもなお闘志は衰えていない。
「やるな……本当にやる……只者じゃないとは思っていたが、所詮少女、これほどとは思わなかった……」
「……諦めてください、人に迷惑を掛けるような事を追いかけるのは、ここまでです」
レイジングハートの先端を向けたまま、声を掛ける。
「嫌だね……俺は、死ぬまで止まらないぜ?」
だから、止めたければ殺せと、少女を逆に脅す。
「そんな……」
なのはに『殺す』という選択肢は存在しない。
「……やはり少女だな、本当に甘い」
転がっているカラシニコフを手に取り、装填された残弾を迷いもなく発射する。
<<Protection>>
だが至近距離から発射されたそれは、唯の一発もなのはに命中することはない。
「……無駄です、レイジングハートはその攻撃を完全に覚えました」
如何に弾速は早かろうと、銃弾による攻撃は直線的だ。
まして魔術的な効力もない武装ではレイジングハートには通じない。
「なるほど……自動防御までついてるのか、その武装は」
諦めたように銃器を捨てる。
「まして女子供を直接殴るなんてしたくはないからな」
そう言って笑う。
その表情はどこか優しさを感じさせる。
彼女が聞かされた『聖杯のために人を殺す』存在のイメージとは異なっている。
それは彼女の『悪』という存在へのイメージ力の不足によるものだが、大凡間違っては居ない物だ。
だが、そうなってしまった理由は存在するはずだ。
それを知りたいと思った。
そして、救いたいと思った。
最終更新:2007年05月21日 02:08